コラム * tannet flash
「レプリカ」と「バーチャル」の世界観
古川 俊弘

まなざしの力


 アテネへの道。選手のまなざしの力はわれわれを釘付けにする。競技したり演技することが一瞬一瞬の価値を作っていく。優れた肉体や知力、胆力、習得した技術、駆け引き、想像だにできない練習や汗の量。などによって繰り広げられるアスリートの世界を垣間見ることは情感が揺さぶられる。常に後がない。今度はない。研ぎ澄まされていく過程にはおのれの肉体、精神、技術が渾然一体となり、限界に挑戦しながら、さらに限界を維持していく。
 
 髪型や髪の色、ひげ、もみあげなどが今風ではあるが世界を目指すまなざしは昔も今も変わらない。時には、われわれの時代に一世を風靡した人たちが率いる往年の名選手、今では初老の風格をともないながらも明日へ向かってまい進する指導者は、集団や個人を率いてアテネへ向けてのベクトルを発散させる。ある一瞬のために、終わりなき再生産の運動を行ない情報やイメージを増殖・促進させていく。
 
 「ただそこにある」ことをまっとうしながら、存在を際立たせていくことによって、まなざしも純粋化されていく。
 見る方は、知らず知らず選手の内面の心情や選手の過去を模倣しながら、勝利を共有することに最大限の関心がはらわれる。観客が模倣するのは彼らの肉体の躍動を媒介としながらも、自分をとりまく過去の断片や今を生きる術の記憶。彼らを見るまなざしと自分に向けた問いの数々。
 

 
 ひとも地域も国家も、普通に生きられることが重要となってきている。
 生活面では自立や社会参加を目指したバリアフリーを始めとしたユニバーサルデザイン。世代を超えたひとの交流、技術や芸能の伝承。賛否はあるが総合学習時間の増加などの教育面。社会基盤では自治体ごとの活性化、地域経済の自立を目指し文化振興や観光資源の整備・アピール、産業の集積・創出を目指した企業と学校の連携。自分の地域で生きるためのまちおこしイベント、生産者名の入った産地直送品、など。国家レベルでは環境問題が最たるもので、世界遺産を始めとした過去を改めて見つめること、温暖化を防ぎ資源の有効活用をはかること。など視点がじょじょに変わってきている。
 
 一斉を風靡したハコモノ行政や道路整備、企業誘致など他人をアテにはできなくなってきて自分や社会、企業も含めて自らの視点と本来の意味での参加が、ますます求められている。当たり前のことを当たり前に行うこと。他人のためではなく、まず自分はどうすべきか、住む地域がきちんとするためには、自分が、皆が、子孫が不幸にならないためにはという発想が根底にある。
 
 
 われわれは空間を作ることをなりわいとしているが、結果としての施設だけを目指している訳ではない。空間側から見ると商業施設、文化施設、PR施設、イベント空間などの形として現れるが、事業構築や経済効果という面から見ると集客、演出、活性化、発信拠点、再開発、リニューアル、遺産活用、育成、開発、投資、留客、時間共有など様々な面を持った要素が結果として空間となっている。
 
 視点として、資源がある場合と、何もないところから作る場合がある。元々資源がある場合は、遺物や有名人をテーマにした地域連携でのまちおこし。歴史ある町並みの中に溶け込む風景を核に文化・情報発信・商業の機能を統合した施設。破綻した施設をまったく違った観点からの場所や雰囲気を再現した施設。バブル時にオープン、目論見が外れ再度きめ細かに収支分析し、違うストーリーで顧客を回復させる試み。何もない場合は、「食べる」という行為をアミューズメント化した施設。「気分」や「雰囲気」まであらかじめ決定された脚本の存在がある施設。資源の価値を転換させた例として、歴史保存指定建物を商業に活用した施設。など。また、過疎化振興や地域活性化の拠点を目指し、結果として水族館となったり、痴呆予防症に役立てようと懐かしさの力を利用し、昔を再現し住民が使っていた道具や製品を持ち寄り展示している施設、などは福祉、文化、教育が融合され地域としての新しい一体感を構成させている。
 
 視点を変えてみると、空間の結果ではわからない根幹のまなざしが潜んでいる。
 
 
 価値は無数にあり、人間の歴史は価値を作り出すことであったとも言える。価値を見直すことや新しく作り出すことは誰しも日常行っていることである。
 イメージされる姿に近づくために、自らの文脈の中に様々な断片を取り込みながら再構成していく。敬意を持ち、良い部分を選択的に利用しつつ目指すものに近づけていく視点。まなざしの力は強い。
 
(ふるかわ としひろ/(株)丹青社 IMC事業部 Dプロ室 3グループ チームリーダー)
 

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