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HOME > tansei.net26号 > コラム > ミュージアム・ナウ > ランドマークとしての展示〜実物の潜水艦を展示する
コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
粟国 嘉隆

運営を意識した展示設計〜海上自衛隊呉史料館から


 「実物の潜水艦」という稀有なランドマークをもつ海上自衛隊呉史料館(以下、呉史料館)は2007年4月に開館し、その後約2ヶ月にして入館者10万人を突破した。展示面積1500m2ほどの史料館で、この入館者数は異例ともいえるが、展示設計および運営計画からは予測の範疇であるといわれている。

 呉史料館は展示の設計、制作と、その後の運営業務が一体化したPFI事業である。そのため、当初から展示設計と運営計画との連携が強く求められてきた。なかでも運営計画であげられた想定年間入館者数の増加は展示設計スタッフにとって大きな課題となった。当初、年間8万人の入館者を想定していた運営計画は、展示設計が実施段階に至るころには、潜水艦陸上展示の特異さと、近隣の大和ミュージアムの堅調な入館者増によって、50万人程度の入館者が想定されるようになった。

  この桁外れな入館者数に対応すべく展示設計では、混雑ピーク時の安全性を保つためのオープンスペースの増加や、より混雑しにくい見学動線の再設定など、大幅に内容を修正し、できる限り運営の負担が軽減するよう設計変更が行なわれた。

日本でも最大級の起重機船「武蔵」によって海上から引き揚げられた潜水艦スタディ模型をもとに動線計画などの検証を行ない、混雑ピーク時の安全確保をはかる

 さらに、どのような混雑が起こるか予想がつきにくいオープン初日には展示設計者自らが、実際にエントランスでの受付業務や、潜水艦見学のためのオリエンテーション業務など、特に混雑が予想されるポジションを受け持ち、運営業務に協力した。展示設計者として展示空間を把握している立場から、どのように来場者を誘導すれば混雑が緩和するかなどのノウハウを生かしながら運営協力する一方、展示フロアに身を置き、来館者への説明、案内を通じて、「来館者がストレスなく設定した動線をたどってくれているだろうか?」「展示解説のポイントとなるガイダンス映像は素通りされてはいないだろうか?」など、具体的に設計意図の検証を行なうことは机上では得がたい経験となった。
 通常、展示企画・設計者はミュージアムが完成するまでの役割とされ、オープン時に「立ち会う」ことはあっても、実際の運営スタッフの一員となって来館者と接する機会は少ない。それだけに自らが設計した展示が、来館者にどのように受け入れられているのか、期待されたデザインの効果が発揮されているかなどを、施設運営の視点で確かめる機会は貴重である。

 こうした展示設計と運営計画の歩調を合わせるうえで、当時準備室長であった中橋明光氏の尽力が大きかったと展示設計スタッフは語る。準備室長は海上自衛隊内で呉史料館整備を推進する実質的な責任者である。これまで海上防衛の任についていた立場から、おそらく展示というメディアを扱うのははじめてという中で、展示設計者の意見に耳を傾け、展示・運営計画を含めた全体計画をとりまとめた手腕は並々ならぬものであったと思われる。現在、管理室長(通常のミュージアムでいう館長)となった中橋氏は、朝できる限りエントランスに立ち、入館を待つ人々に対して見学に来てくれた感謝の気持ちをこめて開館のあいさつを行なっているという。いわゆる「館長」となった今でも、自ら運営に携わる姿勢がうかがい知れるエピソードである。

 5月もゴールデンウィークの繁忙期を過ぎたころ、中橋管理室長から呉史料館の整備に係わったスタッフにシリアルナンバー入りの台紙に載ったドルフィンマークが贈られた。ドルフィンマークとは、潜水艦乗りであることを示す証しであり、潜水艦乗りの誇りともいわれる。潜水艦の実機展示にちなんで贈られたこのドルフィンマークは展示設計スタッフにとっても大きな誇りとなった。

潜水艦見学のためのオリエンテーションを行なう設計スタッフ。来館者とのコミュニケーションによって得るものは大きい
潜水艦見学のためのオリエンテーションを行なう設計スタッフ。来館者とのコミュニケーションによって得るものは大きい
中橋館長から送られたドルフィンマーク。「てつのくじら館」は呉資料館の愛称
中橋館長から送られたドルフィンマーク。「てつのくじら館」は呉資料館の愛称
 
(あわくに よしたか/クリエイティブデザインセンター 設計2ルーム プランナー)
 

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