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コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
粟国 嘉隆

ランドマークとしての展示〜実物の潜水艦を展示する


 ミュージアムでは、絵画や彫刻をはじめとした美術資料や、古文書などの文献資料、植物の標本資料など、館のテーマに応じてさまざまな資料が取り扱われている。多くは展示室内に展示できる大きさであるが、なかには展示室には収まりきらないほど巨大な資料を扱うこともある。広島県呉市に整備される「海上自衛隊呉史料館(仮称)」(以下「呉史料館」)も、非常にスケールの大きい資料を扱うミュージアムとして注目されている。

 「呉史料館」は、さまざまな部隊・役割がある海上自衛隊のなかでも潜水艦と掃海艇(機雷を除去する役割を持つ艇)の2大テーマに焦点を絞った特徴的な展示施設である。2007年にオープンが予定されている同館では、本物の潜水艦を海から引き揚げて屋外に展示しようと計画している。展示される潜水艦の名は「あきしお」。全長76mの巨体である。ちょうどジャンボジェット機から翼を取り外した大きさを想像するとイメージが沸くかもしれない。このような巨大な潜水艦を陸揚げすることは、日本でもはじめての試みである。 日本でも最大級の起重機船「武蔵」によって海上から引き揚げられた潜水艦日本でも最大級の起重機船「武蔵」によって海上から引き揚げられた潜水艦

 2006年9月25日と26日の2日にかけて実施された潜水艦の陸揚げ作業では、基準排水量2250tという超重量物の潜水艦を引き揚げるために、高さ100mを超えるクレーンを持つ、日本でも最大級の起重機船が導入された。ともすると巨大な潜水艦が水しぶきとともに海上から浮上する豪快な引き揚げ作業が想像されがちだが、実際には起重機船自体の船体が沈むほどの負荷をかけながら、凝視していないとわからないほどゆっくりとしたスピードで潜水艦が引き揚げてられていく。全長70mを超える躯体のバランスがくずれないよう、微妙な調整や確認を行ないながら潜水艦を引き揚げている作業の難度と緊張がこちらにも伝わってくる。作業開始から数時間を経てのち、ようやくその姿を現した潜水艦は、翌26日の深夜にかけて、やはり慎重な移送作業の末、無事に呉史料館脇の架台に設置された。

 通常、ミュージアムにおける資料搬入作業は、利用者の見えないところで行なわれる、いわば裏方の仕事だ。しかし、呉史料館の展示用潜水艦はその異様なまでの巨大なスケールによって搬入作業が一つのイベントと化した。2日に及んだ搬入作業では地元住民を中心に多くの人々が、おそらくは一生に一度あるかないかの潜水艦の陸揚げを一目見ようと、史料館前の埠頭に集まった。呉史料館の展示企画・設計スタッフもまた、この搬入作業に立ち会った。呉史料館の展示プロジェクトの企画段階から関わっているスタッフにとって、この潜水艦の引き揚げは一つの節目であった。潜水艦は単に外観を見せるだけではなく、内部区画の一部を公開・展示する予定であり、史料館内部の展示と同じ企画・設計者が計画を担当している。これまでの、どのミュージアムでも扱われることのなかった巨大な「資料」の内部をどのように見せていくか、潜水艦とどのように連携させて史料館内の展示を組み立てていくかなど、屋外展示と館内展示の2つの要素を合わせて展示設計・製作が進められている。今後は、潜水艦引き揚げ作業によって盛り上がりつつある史料館への市民の期待に応えるべく、展示演出上の工夫や展示製作の精度をより高めていくことになる。

 海上では本来の1/3程度しか姿を見せない潜水艦の全貌が陸上で明らかにされると、普段潜水艦を見慣れている乗員でも、その巨大さに圧倒されたという。潜水艦は開館よりも一足早くランドマークとしてその巨大な存在感を周囲にアピールし、呉史料館オープンへの期待感を高め続ける。

空を飛ぶかのように起重機船によって輸送される潜水艦。後方には史料館の建設地が見える
空を飛ぶかのように起重機船によって輸送される潜水艦。後方には史料館の建設地が見える
設置が完了した潜水艦。あまりにも巨大な潜水艦の躯体で呉史料館の建築が隠れてしまう
設置が完了した潜水艦。あまりにも巨大な潜水艦の躯体で呉史料館の建築が隠れてしまう

 
(あわくに よしたか/クリエイティブセンター クリエイティブ3部 プランナー)
 

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