■コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
粟国 嘉隆
博物館の魅力を引き出す「ツール」としての展示
博物館で行なわれる教育普及活動は館内外にその活動範囲を広げながら、利用者の幅広いニーズに応えている。 館外の教育普及活動は、自然をテーマとすれば動植物の観察会や、植生・生息域の調査などがあるし、歴史をテーマとすれば地域に残された文化遺産を巡るツアーなどが実施されている。
また館内の教育普及活動については講演会や工作・実験など、各分野に応じた基本的な活動をはじめ、さまざまな展開がなされている。
その中で、常設展示を用いた教育普及活動について積極的な展開は少ないように思われる。 例えば博物館の展示をさまざまに読み解き、自由に楽しんだり、学習に活用したりするような、常設展示を「ツール」として捉える活動があってもいい。
国立科学博物館では、2004年11月にグランドオープンした新館の常設展示を一つのコミュニケーションツールとして活用した教育普及活動がはじめられている。
研究者と見学者が常設展示室内で直接触れる機会を提供する「ディスカバリートーク」である。 見学者にとって博物館の舞台裏にいるイメージの強い研究者が、常設展示室という見学者と共にある場でその高度な専門性を生かした展示解説を展開する。
同館では、来館者にとってぬくもりのある、顔の見える博物館を目指す目的で、研究者との対話を重視した活動として位置づけている。 土・日・祝日、午前・午後1回ずつの計2回実施されており、研究者が展示フロアを巡りながら自らの担当した展示やフロアの見どころなどを紹介する。
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ディスカバリートークの定員は約15名、はじめに研究者のプロフィールが説明され、トークの内容に対する参加者の期待感や興味を高める
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 自らの研究分野について展示を手がかりにトークを展開する。研究者ならではの専門性の高い解説が展示資料の魅力を引き出す
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テーマは研究者の専門分野によって毎回変化するため、それにあわせて紹介される展示内容も異なることになる。 対象となる展示は目を引く大型の展示標本のときもあれば、小さな資料がクローズアップされ、研究者の熱のこもった解説が続けられることもある。
研究者によって資料に隠されたストーリーが語られることで、普段は通り過ぎてしまいそうな「モノ」が見学者の目に生き生きとした展示資料として映りはじめる瞬間が「ディスカバリートーク」の魅力である。
研究者により、固定化したイメージのある常設展示室が変幻自在に変化していく。 |
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展示の一部にはこの「ディスカバリートーク」が展開しやすい工夫もなされている。
地下2階「人類の進化」内にある「猿人の進化」では、猿人がなぜ二足歩行するようになったのか、いろいろな仮説の中から見学者自身で答えを探し出してみることを促す展示がある。
最新の研究成果に基づきながらも、研究の進展によっては変化するかもしれない仮説を示しながら、さまざまな可能性を見学者といっしょに考えるための「ツール」として、研究者と見学者が意見を交わすきっかけを作り出している。 |
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猿人の二足歩行の理由について、見学者が自分なりの想像をはたらかせるきっかけを与える展示。資料の周辺に仮説を模式化した展示が並び、それぞれの仮説には研究者の評価が参考として示されている
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展示を企画・設計するとき、見学者にとって見やすい展示のあり方など、利用者の視点に立った展示のあり方は常に考えられてきた。
これからは利用者の視点に加え、資料の魅力を引き出すための手がかりをちりばめた、研究者、スタッフなどが活用しやすい展示の視点も必要とされるだろう。
研究者の解説に耳を傾け、知らず知らずのうちに展示テーマに引き込まれていく参加者の姿は、
さまざまな教育普及活動と連携の図ることのできる展示、いわば博物館の魅力を引き出す展示が、
見学者と博物館の新たな関係を生み出す可能性があることを感じさせる。
(あわくに よしたか/(株)丹青社 公共空間事業部 企画開発室)
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