コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
粟国 嘉隆

利用者の視点に立った博物館のあり方


 博物館の自立した運営が求められるようになるなかで「博物館のあり方」というものを、より深く追究しようという動きが活発化している。博物館は運営を続けていくうえで、定期的な目標や方針の見直しが必要とされるが、そのための視点をどこに据えるかが課題としてとりあげられるようになっている。特に「博物館利用者」をしっかり見据えた 「博物館のあり方」つまり、「どのような目標を掲げ、どのような人々に働きかけていこうとしているのかという博物館の使命(mission)が、きちんと館内外で認識されているか」という、利用する市民との距離感などを意識した見直しの視点は重視されるものの一つである。「資料中心から、利用者中心の博物館運営へ」という博物館の捉え方の変化も、このような意識が根底にある。
 
 この利用者中心の博物館運営への移行を見据え、どのような取り組みを行なっていくべきかを主な議論の対象としたのが、2004年5月、江戸東京博物館(東京都)で開催された、国際シンポジウムPART2「21世紀のミュージアム・マネージメント」(主催: 財団法人東京都歴史文化財団、江戸東京博物館、東京新聞)である。シリーズの2回目にあたる今回は、アメリカ、カナダにおいて先駆的な利用者主体の博物館運営を行なってきた3人のゲストと、その取り組み事例をもとに21世紀にふさわしい博物館運営について日本の博物館関係者とが話し合った。 

シンポジウムの様子。左より、小林淳一氏(江戸東京博物館学芸員)、竹内誠氏(江戸東京博物館館長)、ダン・モンロー氏(ピーポディー・エセックス博物館館長) 、シルビィー・モレロ氏(カナダ国立文明博物館副館長) 、ジル・ローケッター氏(シアトル美術館教育部長)、三木美裕氏(九州国立博物館設立準備室企画主幹)

 議論は博物館で行なわれる活動プログラムから博物館評価に関する話題まで博物館運営に関連した幅広いテーマにおよぶ内容となった。ケーススタディとなった博物館が比較的大規模な施設であり、日本の多くの博物館の運営に直接結びつきにくいと感じられる点もあったものの、地域や規模を超えた根本的な博物館運営の取り組み姿勢や考え方について、多くの意見や提案が交わされたこのシンポジウムの意義は大きいと感じた。
 
 ディスカッションの中では、博物館が、他のアミューズメントなどを目的とした集客施設と競争しなければならない厳しさや民間企業からの資金援助など、経営的な話題が取り上げられる反面、博物館資料を公共財として捉え地域の貴重な財産であることと、それを取り扱う博物館の活動について、多くの市民に認識してもらうことが必要であることが強調される場面もあった。最近では集客性を重視するあまり、博物館本来の魅力を見失いがちになる博物館運営の議論の中で、あくまでも「博物館」としての機能や役割を核として話題提供がなされたことは重要であったと思う。
 

企画展「新選組」展の様子(撮影:川島博志)
 

池田屋事件を来館者と一緒に検証するための1/3スケール模型(撮影:川島博志)
 また、博物館スタッフに関する話題では「博物館のあらゆるスタッフが、肩書き、勤務経験にとらわれず、新たな変革に参加すべきであり、経営に長じた外部の専門家を起用するにしても博物館に対する情熱を持っていなければ運営に携わる意味はない。」という提言がなされ、展示という側面から博物館と関わる立場にも同じことがあてはまることを実感した。企画提案する博物館に対する熱意がなければ、その博物館が本当に必要としている提案をすることは難しい。企画展や展示更新など、開館してから展示の企画や設計者として携わる機会はさまざまである。シンポジウム当日も、企画展「新選組」展が開催されており、多くの来館者で賑わっていた。放映中のNHK大河ドラマとのタイアップ企画であることを意識しつつも、はじめて「新選組」にふれる来館者を想定して、素朴な疑問や隠されたエピソードを取りこぼさず展示解説に反映させている。来場した人々と同じ目線であることを意識した展示である。利用者の視点を重視する博物館の運営方針をしっかりと把握し、積極的に参画する情熱をもつことで、より高度な専門能力を発揮できるパートナーとなることは展示設計者の使命でもある。

 

(あわくに よしたか/(株)丹青社 公共空間事業部 企画開発室)
 

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