コラム * tannet flash
ミュージアム・ナウ
粟国 嘉隆

コレクションとの対話を楽しむ展示


 展示企画や設計に携わる者の数だけ、新たな展示の可能性がある。多くの展示企画・設計者は自身が関わる博物館施設の展示計画のなかで、「これまでにないもの」あるいは「新しい何か」をめざしている。それはコンセプトやテーマ構成の考え方など概念的なものから、最新の素材や機器などを活用した表現手法のような具体的なものまで、さまざまな段階で試みられる。与えられた諸条件の中に、ひそかに(あるいは大胆に)展示企画・設計者としてのアイデアを取り込んでいく。
 このようなアイデアがより強調される展示計画が、短期の企画展などでは展示室をひとつのトライアルの場として捉える、実験的な展示という考え方につながっていくのかもしれない。
 
 東京大学総合研究博物館で開催された「シーボルトの21世紀」展(2003年10月4日〜12月7日)はその「実験展示」の色合いが強く打ち出された展示である。シーボルトの野心的な収集活動を軸に展開する強いストーリー性と、4つの展開テーマごとに変化する空間デザインがオランダのライデン大学から寄贈された植物標本のコレクションを際立たせる。本展はシーボルトという歴史的人物を確固たるテーマと見据え、分野を越えたさまざまな視点で展開しているが、ここでは自然史関連資料を扱うコレクション展示としてみたとき、どのような特徴が浮かび上がるのか考えてみたい。 写真(1)
(1)植物標本を中心に、日本そしてヨーロッパの画家が描いた植物画を上下に配置した比較展示。背後にはヨーロッパに紹介した日本の植物の映像を通じて、シーボルトの活動が様々な分野に波及していくイメージを伝えるインスタレーション演出。(撮影:奥村浩司)

 実物資料を用いた、これまでの自然史関連展示のおおまかな流れは、動物の剥製や植物標本などを系統ごとに整理して紹介していく分類展示から、動植物の生息状況を表現するために、生態環境を参考に各々の資料を組み合わせたジオラマ展示への進展などがある。最近ではジオラマ内の動植物資料を双眼鏡などで観察する体験的要素が加えられたり、照明効果により昼夜を表現するなどの演出が行なわれたりする例もある。
 
 今回の展示は、植物標本の分類展示ということになるだろうか。しかし、標本資料と一体化した演出が取り入れられている点において、従来の枠に収まらない楽しさと驚きがある。植物標本とそれをもとに描かれた和洋2つの植物画が、3つそろって対比される展示に加え、シーボルトが収集した資料からさまざまなモノやコトが派生し、開花するイメージを映像と組み合わせて表現する手法は本展示の目玉の一つだ(写真(1))。また、展示を見学するうえでのイメージづくりが随所で行われているのも特徴の一つといえる。シーボルトが収集した日本の園芸品種にちなんだ、和のイメージを伝える浮世絵の映像を屏風型グラフィックと組み合わせて表現する(写真(2))など、資料を際立たせる映像演出も通常のコレクション展示ではあまりみられない。
 
写真(2)
(2)江戸時代の浮世絵のコラージュによる映像演出。和のテイストをヨーロッパに持ち込んだことをイメージ表現している。(撮影:奥村浩司)
 コレクションの展示(特に、収集者の名を冠した、様々な意味で貴重性の高い展示など)を企画する場合、資料そのものを充分に鑑賞してもらおうとして、展示演出をなるべく少なくする「引き算」としての展示を考えがちだ。しかし、見学者の興味や好奇心を引き出し、それにこたえる「足し算」のコレクション展示があってもいい。その意味で本展は大胆に「足し算」をした実験的な展示といえる。コレクションをただ見せるのではなく、資料とともにそのイメージを伝えながら来館者と楽しく対話する展示だ。
 
 そして「シーボルトの21世紀」展の一番の魅力は、こんな思考を意識させず資料が語るシーボルトの世界観に浸れるところにある。そういう心地よさが展示室に漂う。どのようなアイデアからこの展示空間が生まれたのか、コレクションとの対話を楽しむ展示は、展示企画者や設計者と対話してみたくなる展示でもある。
 

(あわくに よしたか/(株)丹青社 公共空間事業部 事業企画室)
 

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