■コラム * tannet flash
ショップス・ニューウェイブ
朝田 賢治
古今無双の和みの空間
和風居酒屋は、いわばジャパニーズバーまたはパブである。付加価値高くゴージャスな夕食ができればダイニングバーとなる。『忍庭』『橙家』『響』『和乃匠』『庵』など、デザインに和回帰があると同時に店名にもその傾向は顕著である。そのほかにも『二期』『安曇家』『楽雅』『集』『土間土間』『月の雫』など漢字だけの店名がふえ、これをトレンドと捉えるか、見方によって評価は分かれるところだ。
ファッションデザイナーの三宅一生氏が言う。「メイクアップ」に比べて、原点に戻る意味の「メイクダウン」の発想は常に人の心に優しくはたらく。日本国民が永い年月をかけて培った風習、制度、様式、芸術など人間の根幹をなす精神的なあり方。市場を席巻している「和」を主題にした洒落た創作料理の店、新進気鋭のデザイナーが腕を奮い、開店ラッシュで枚挙に暇がない。今、これを「フュージョン」と銘打ってアフター5の宴食は花盛りである。
<あるOLの会話>
| せい子: | あたしここ絶対来てみたかったの、『紫御殿(むらさきごてん)』、チョー内装カッコよくて夜景も見れるし、スゴクない?見てっ、入り口のワインセラー。おーきいわねー。 | |
| よう子: | ねー。 | |
| 店員 : | いらっしゃいませ。お荷物宜しければお預かりいたしますが。 |
| せつ子: | あっすみませぇーん。 |
| せい子: | ちょっと、ちがうわねー、その辺の居酒屋とは。もう『平民(ひらたみ)』とか『赤札屋(あかふだや)』なんか行けないわね、ほんとに。 |
| よう子: | ねー。 |
| せつ子: | んもう、『敬老の滝(けいろうのたき)』とか『南の裸族(みなみのらぞく)』とか最悪よね、ダサダサって感じ。汚いし狭いし、換気も良くないし、煙草臭くって。 |
| 店員 : | お待たせしました、どうぞこちらに。足元お気をつけ下さい。 |
(一同席へ、・・・メニューを眺めながら)
| せい子: | ねえこの、「紫風餃子」って何個のってるかな、5個かな、4個はあるわよね、ねっ、でも1000円って高くない? |
| せつ子: | ねっ「ブルスケッタ」って何?ビスケットだっけ?ねっこの「カルパッチョ」って何?肉?魚?野菜?美味しいの? |
| せい子: | 何いってんのよ、知らないの、確か牛肉の赤身の燻製か何かよ、だと思うけど、待ってよ、確かそうよ、食べたことあるもの、きっとそうよ。ねー。 |
| よう子: | ねー。 |
| せつ子: | 聞いてみようか。すいませぇーん、この「カルパッチョ」って牛肉の燻製ですよね? |
| 店員 : | いえお客様、タラの切り身など魚介類をオイリーな風合いで盛り付けた代表的なイタリア料理で当店の自慢料理のひとつでございます。 |
| せつ子: | ・・・恥じかいちゃったじゃない、ちょっと。頼むわよせい子、いい加減なんだから。最近和食ベースにしたフュージョンってゆうのが、流行なのよ、これもその創作料理のひとつよ、きっと。ねー。 |
| よう子: | ねー。 |
(食べ物が来て・・・)
| 店員 : | お待たせ致しました。奄美産黒豚のタウポチーズとトリュフのせアレキサンドリア風ソースでございます。 |
| せい子: | 何?これ何?誰頼んだのこれ。 |
| せつ子: | 何言ってるのよ、せい子じゃない、頼んだの。でもどうやって食べるの。切るの、ナイフで?少ないわね、分けたら。これで1200円よ。高くない、ちょっと。 |
| よう子: | ねー。 |
| せつ子: | どうでもいいけどさっきからあんたずーと「ねー」ばっかりね。まあいいけど。 |
(食べながら・・・)
| せい子: | んまい。さすがになかなか予約が取れないだけの味よね、スゴイわー。このうなぎに蟹肉がまぶしてあって、サルサソースなんて発想、すごいわねー。しかもキャベツの辛子煮で巻いてあるなんて、食べたことないわー。ねー。 |
| よう子: | ねー。 |
| せい子: | 「融合」よねー。料理に国境はないのよねー。感動だわー。また来たいわねー。今度はうちの部長なんか連れてきましょうよ。音痴だから、アイツ。えらそうなこと言って何にも知らないのよねー、ほんとに。 |
フュージョンさせることにより生まれる、期待させる何か。底辺には日本人としての千古不易の精神世界がしっかりと広がる。シーンを売る飲食店。人、料理、店のデザイン、そしてプライスも重要なファクターである。古色蒼然たるオリエンタルな壷に南洋の花と実が異彩を放ち、黒塗りの床に落ち葉ひとつ。その実の仄かにスウィートな香りに誘い誘われ、今日は青山、六本木。都会のHanakoの夜は更けていく。
(そして会計・・・)
(一同顔を見合わせる・・・会計をすまして店を出る)
| せい子: | せつ子が「イストリーチェ」のワインなんか最後に頼むからよ。しかも残したりして。もったいないったら、ありゃしない。ねーよう子。 |
| よう子: | ねー。 |
| せつ子: | 明日からしばらく昼は『ダック』の65円バーガーね。 |
(一同ため息。)
(あさだ けんじ/(株)丹青社 第1商空間事業部第1営業部 部長)
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