コラム * tannet flash
ショップス・ニューウェイブ
朝田 賢治

ユビキタスな女


 大仰な身振りでここぞとばかりに核心を衝き、右手に煌めくヴェルサーチの腕時計と同様にその存在感に自己陶酔してしまう。プログラムで管理されたスレンダーなボディをマックスマーラのスーツでまとい、議事ひとつ纏められない中途半端な男の戯言には、眼球を射抜くような一瞥をくれてその口を封じてしまう。
そう、彼女は今はやりの「ユビキタス」な女。
 

 
 注文をした本がインターネット宅配書店に在庫がないとEメールが返ってきた。事態に冷静に対応した彼女、リアル店舗で自ら探す。支払いは「EDYカード」。貯金箱にお金を落とすようにシャリーンと軽快な擬音がする。最近良く耳にするこの音、レジ待ちの男も興味津々。(「EDY」対応携帯電話も7月日から登場、すでにNTTドコモiモードでは4機種が導入されている)
 
馴染みのブティックのショーウィンドー、立ち寄るコンビニ店頭のガラスサッシュには高輝度CF映像が写し出されている。読み過ぎたらバカになるが、読まなさ過ぎるとブスになるといわれる女性誌も、『VERY』『JJ』の2誌だけは定期購読している。入手した最新情報はインターネットカフェで誰より早くその情報精度を高める努力にぬかりはない。
 
「700m先に料金所です」と無味乾燥なカーナビのお姉さんの声。場所を言えばハンズフリーに案内してくれるこのお姉さんは、カーショップの店頭を彩る主力商品である。
ほどなく料金所は車載ETCで楽々ゲートをくぐり、順番待ちの列をなしているアナログ野郎を尻目に「ユビキタス」な車は目的地を目指す。
 
 
 20世紀末、巷をにぎわせた「インターネットカフェ」という業態があった。やがてPCの家庭への普及とともにブームが一段落。独自のコンテンツの確立がないことは現在も課題であるものの、ブロードバンド環境を背景に復活の兆しがある。
 
ITに新たなキーワード「ユビキタス」。ユビキタス(ubiquitous)とはラテン語で「あらゆるところに存在する」という意味。(ユビキタス・コンピューティングという概念が最初に提唱されたのは1988年米国ゼロックス社のマーク・ワイザー氏による)
欲しい物(情報)は何時でも何処でも手に入る「ユビキタス・コンピューティング社会」が彼女のフィールド。「ユビキタス」により生産、流通が変わり、店舗もそのVMDや運営方式が進化続けている。
彼女がアクセスするデータ(情報)は即時に形を変え、目的を持ち、カスタマイズされて新しいサービス(産業)を育む。コンピューターの存在自体を意識しないが、確実にコンピューターに依存している社会が着々と世の中の仕組みを変え始めている。
 
 
彼女はユビキタスな女。最新ドラム型乾燥機能付き全自動洗濯機を持っている。毛布も洗いたいから家庭サイズとしては8kg対応で大容量なのに、彼女は不満。なぜ洗って乾かしたものを畳んでくれないのか。
彼女はユビキタスな女。お気に入りのティファニーのピアスが片方見つからない。ふと床のフローリングの隅を見ると最新型の360度全方向駆動の掃除機がお行儀良く、ちょこんと。まさか…。フィルターを開けたらやっぱり予想が当たった。ゴミと宝の区別がつかない不完全なパートナーに同じく不満がある。
掃除機は電子の眼(センサー)でゴミを認識し、忠実に吸い込み処理をするだけの機能しかない。壁に当たりそうになれば避けることはきても、落ちているものがゴミなのか、大切に扱わなければならない物なのか識別できない。
もしそれをしようとするなら、すべてのものに超小型ICタグを仕込むしか方法がない。
「ユビキタス・コンピューティング社会」が目指す究極は「便利にする」こと。
 
スピルバーグの『A.I.』に登場した人工知能を持った子供型ロボット、ウィル・スミス主演9月公開の『アイ・ロボット』などが製造される近未来。果たしてその夢が叶うのは何時のことか、どのような世の中になっているのか、その道のりは険しい。
 
(あさだ けんじ/(株)丹青社 商空間事業部 第3営業部 部長)
 

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