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■ケーススタディ 博物館と福祉のコラボレーション “懐かしさ”の力を痴呆症予防に活用
「歴史民俗資料館」「回想法センター」 昔懐かしい生活用具などを使いながら、かつて自分が体験したことに思いを馳せ、語り合うことで生き生きとした自分を取り戻し、痴呆の予防に役立てる「回想法」という心理療法がある。いま、愛知県・師勝町では、この回想法を媒介に、博物館と福祉が一体となった新しい試みが進められている。 発端となったのは、1990年にオープンした、別名「昭和日常博物館」とも呼ばれる「師勝町歴史民俗資料館」である。いまでこそ、いろいろな分野で“昭和30年代”にスポットが当てられることが多いが、同館は98年から、捨てられ、忘れられていく昭和30年代、40年代の身近な生活用品・用具を収集、記録、展示することに力を注いできた。 館内に足を踏み入れると、そこは懐かしい昭和の世界である。トタン屋根と板塀に囲まれた路地裏、駄菓子屋にタバコ屋、ホーロー看板、電化製品や生活用品、雑貨、小物などなど、いまとなっては貴重で懐かしい品々が所狭しと並ぶ。お金を出して購入したものはないという同館の資料は、すべて足を運んでコツコツと集めたもので、いまでは10万点という膨大な数になっている。年に2回の企画展と1回の特別展が開催され、県内はもとより全国から年間に4万人以上の来館者が訪れる。 同館学芸員の市橋芳則氏は、同館を訪れた多くのお年寄りたちが発する「懐かしい」という声と、思い出話、そしてそれを語り合うときの楽しそうな表情を見て、“懐かしさ”のもつ力に気がついた。付き添ってきた引率者からも、高齢者が普段と違った生き生きとした表情をしていることを聞き「懐かしさには癒しやヒーリング効果があるのでは」と感じた同氏は、99年、「ナツカシイってどんな気持ち〜ナツカシイをキーワードに心の中を探る。ヒーリング効果としてナツカシサ」という企画展を開催。そして2001年には、師勝町総合福祉センター「もえの丘」で同館の資料を使ったミニ企画展も開催するなど、より積極的に記憶を呼び起こす展示活動を続けてきた。 すでに回想法という心理療法があることは知っていたが、しかしながら、博物館としてできることには限界がある。“ナツカシサ”を回想法という医療行為に結びつけるには、福祉や医療機関との連携が欠かせないし、博物館本来の役割からいっても、そこまで足を踏み込むことには無理があった。 大きな転機となったのは、国立療養所中部病院内科医長である遠藤英俊氏、およびテレビ映像を使って回想法を実践しているシルバーチャンネル(スカイパーフェクTV)との出会いであった。2001年12月、放送用の映像収録が同館を使って行なわれたことが契機となって、町の総合福祉センター課とも連携して回想法に取り組んでいく動きが生まれたのである。 同館とその収蔵品、明治時代の旧家で国の登録有形文化財にも指定されている「旧加藤家住宅」を有効活用し、もえの丘(総合福祉センター課)が主体となって、回想法による痴呆予防のための地域ケアを進めていくというもので、いわば福祉と教育・文化が一体となった試みだ。 翌年1月には、早くも、回想法事業の拠点とするための「回想法センター」を旧加藤家住宅の敷地内に設置するため、厚生労働省の補助事業への申請、採択がなされて建物の建設が進むとともに、並行して昨年度から「師勝町思い出ふれあい(回想法)事業」がスタートした。 これは、参加者が専任指導員のもと、昔の生活用具を手にしながらグループ単位で語り合うグループ回想法のプログラムや、在宅福祉ボランティアを通じた回想法の普及・啓発活動、シンポジウムの開催、教科書やビデオの制作など、回想法の普及促進と実践をしていくための事業である。昨年11月には回想法センターが竣功。それまで歴史民俗資料館で実施してきたグループ回想法も、今年度からは同センターで行なわれることになり、回想法事業の中心拠点として機能することになる。 「当館は、小学校の総合的な学習の時間でも利用されることが多いのですが、これからは回想法センターのほうも利用してもらえれば、実物に触れたり使ってみたりというハンズオンが可能になりますし、そこにいるお年寄りから昔の話や生活体験を直に聞くこともできます」(市橋氏)。 地域の中でお年寄りと子どもたちが自然と交流できる場ともなる可能性があり、子どもたちに一生懸命語りかけるということでも回想法の効果は一層高まるに違いない。 博物館にとっても、資料が展示以外でも有効に活用されることにとどまらず、グループ回想法の記録を二次資料として蓄積していくこともできる。また、回想法を意識した資料の収集も今後は視野に入れていくという。 「福祉との連携により役割分担ができたことで、博物館本来の機能はしっかりと果たしながら、その一方で私どもの集めてきた資料が、高齢者ケアを通じて社会還元できるのは非常にありがたいことだと思っています」(市橋氏)。 博物館の存在意義が問いかけられることの多い昨今、このような形で博物館が社会貢献できることの意義は大きいといえるだろう。 同館には、福祉の現場からの問合せの声も多いという。「師勝町が取り組んでいる思い出ふれあい事業についてお話しできますし、経験を踏まえたいろいろなご提案もできますので、ひとつの事例として、他の地域でも大いに参考にしていただければと思っています」(市橋氏)。 今年度には、思い出ふれあい事業の一環として、懐かしい生活用具やビデオなどを収め、各地で活用してもらうための「回想法キット」を全国に向けて提供する計画で、現在、その準備が進められているところである。
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