ケーススタディ

神宮徴古館・農業館 神宮美術館

伊勢神宮に伝承された文化と奉納された
美術工芸品にふれることのできる3つの博物館


 
 年間におよそ500万人が参拝に訪れる伊勢神宮には、あまり知られていないが、3つのミュージアムがあり、調査研究にも多くの実績がある。神宮徴古館・農業館、神宮美術館で、いずれも神宮が公益事業として運営するものである。今回の特集で取り上げたミュージアムでは、最も古く歴史のあるものだ。
 
 これら3館は外宮と内宮とを結ぶ御幸道路の中間に位置し、最初に目に入るのが、後期ルネサンス様式の建物である徴古館。明治42年に前庭とともに完成し、同44年に神宮に奉納されたが、戦火で建物と展示品の9割を焼き、昭和28年に復旧されたもの。赤坂離宮や東京国立博物館表慶館などを手がけた片山東熊氏の設計になるもので、復旧に際しては外壁をそのままにし2階建てに改められた。
ルネサンス様式の外観をもつ徴古館。
隣には1985年に新館が建築された
 
 名称からは内容が想像しにくいかもしれないが、神宮に関する展示を中心とした総合歴史博物館、といえばわかりやすいだろう。神宮では20年に一度式年遷宮が行なわれ、御正殿をはじめ社殿が建て替えられ、調度品、神宝類もすべて古式のまま新調されて以前のものは撒下される。徴古館にはその撒下された品々をはじめ、古墳時代の出土品や古文書などの考古・歴史資料、皇室や豊臣・徳川家からの拝領品、昭和28年の式年遷宮の際に芸術家たちから奉納された美術品などが収蔵・展示されている。総資料数は約8000点あるという。
 
「古代の技術を伝承し“現代の正倉院”ともいえるご神宝類は他では絶対に見ることができませんから、ぜひ多くの方にご覧になっていただきたいですね」(神宮司廳文化部 学芸員 深田一郎氏)というように、貴重な資料が集積され、受け継がれてきた技術を目の当たりにできるのも意義深い。
 
 
(左)●内宮の御垣内を再現した1/20の模型を展示。唯一神明造といわれる建築様式を見ることができる
(中)・(右)●御装束神宝は714種・1,576点あり、その一部を展示している。本来遷宮により撒下された品々は地中に埋納されるか焼却されてきたが、明治以降、技術の伝承、遷宮への一般の理解を深めるために保存されるようになった
 
 
 同じ片山東熊氏の手になり、平等院鳳凰堂をモデルにしたという木造建築の建物が農業館である。明治24年に外宮に創設され、同38年に現在の美術館の地に移転増築。さらに美術館創設のために現在地に移転された。移転の際に規模は縮小されたが、徴古館とともに国の登録有形文化財に指定されている。
 
 ここは“自然の産物がいかに役立つか”をテーマとした「日本最初の産業博物館」。皇室御下賜品や御料地関係の資料や、当時の農業が農・林・水産のすべてを包括したものであったことから農業資料、林業・水産業・繊維業の資料が収蔵・展示されているほか、日本の博覧会や博物館の生みの親といわれ殖産興業政策推進の中心人物でもあった田中芳男氏のコレクションも収められている。
 両館とも、より充実した、わかりやすい展示にするため、今年度中にリニューアルが予定されている。 
(左)●農業の発展を示す資料や祭典御料の神事用具などを展示した第1展示室。
(中)●農業館の外観。もとは巡回式の建物だったが、1996年の復元の際に凹型に縮小された
(右)●農具類を展示した展示廊。奥は林業・水産関係の資料をベースとした第2展示室
 
 
 3館のなかで最も新しく、平成5年の第61回式年遷宮を記念して開館した神宮美術館は、文化勲章受章者・文化功労者・日本芸術院会員・重要無形文化財保持者から遷宮を奉賛して神宮に奉納された作品を収蔵・展示する施設として創設された。創設の趣旨に沿って毎年次々に美術品が奉納されており、錚々たる顔ぶれの作品に出会うことができる。建物の設計自体も日本芸術院会員の大江宏氏が担当した、内容にふさわしい現代建築である。
 
(左)●中庭には三坂耿一郎氏の作になる彫塑が置かれ、建物と緑に調和した景観を休憩室から楽しむことができる
(中)●現代美術と和の調和をコンセプトに設計された
(右)●日本画や洋画、書、彫塑、工芸など当代を代表する芸術家から奉納された作品が展示される。年に2回、春と秋に特別展も開催される
 
 神宮の歴史とともに、創設の趣旨が継承されるなら将来は、わが国美術・工芸の足跡を刻む美の殿堂となるに違いない。
 
 

データ 2002年6月現在

[所在地] 三重県伊勢市神田久志本町1754-1(倉田山)
[オープン] 徴古館:1909年
農業館:1891年
美術館:1993年
[事業主体] 神宮司廳
[建築面積] 徴古館:810m2
農業館:445m2
美術館:3,026m2
[延床面積] 徴古館:1,611m2
農業館:439m2
美術館:3,201m2
[構造・規模] 徴古館:煉瓦造平屋建・中2階付
農業館:木造平屋建
美術館:RC造一部S造地上1階一部2階、一部地下2階建
[施設内容] 徴古館:中央ホール、展示室12室、収蔵庫8室など
農業館:展示室2室、展示廊など
美術館:展示室2室、展示廊、休憩室など
[開館時間] 9:00〜16:30(11月〜2月は9:00〜16:00)
[拝観料] 徴古館・農業館:大人300円(240円)、大高生150円(120円)、中小生100円(80円)
美術館:大人500円(450円)、大高生300円(250円)、中小生200円(150円)
(  )内は30名以上の団体料金。
100名以上はさらに割引料金を設定
3館の割引共通券、インターネット特別割引あり

 


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