ケーススタディ

平等院ミュージアム 鳳翔館

所有者による保存と公開のあり方を追求
最新テクノロジーを駆使し、景観にも配慮


 
   境内に足を踏み入れ、鳳凰堂の北側から正面を通って南側へ回り込んでいくと小高い段丘状地があり、幅2メートルほどの通路が現われる。これが鳳翔館への入口だ。この見事に目立たないエントランスは、周囲の景観や環境に配慮するという平等院の考え方が象徴的に示されたもので、2層構造の建物の大半が地下構造(実際には鳳凰堂と同じ地上レベル)になっているのが特徴のひとつであり、鳳翔館単体の事業というより、平成2年からの発掘調査や庭園整備など平等院全体の修復・復元計画の一環として位置づけることができよう。
南門側の石庭から見た鳳翔館。この面が鐘楼と向き合う配置になっている
 
 エントランスからは、17メートルの高さから自然光が降り注ぐ通路がまっすぐに伸び、正面の格子越しに国宝の梵鐘を透かし見ることができる。ここ地下階には常設展示室および企画展示室のほか、講義室としても活用できる映像展示室、収蔵庫などがあり、展示室には雲中供養菩薩 躯、鳳凰1対、観音菩薩立像といった国宝、重要文化財、平等院古図、発掘出土品などが展示されている。 
 また地上階は、地下階とは対照的にガラス張りの明るい空間となっており、ロビー(ミュージアムショップ)、レファレンススペース、レストスペースである縁などが設けられている。
 
(左)●トップライトからの自然光が優しい雰囲気をつくり出すエントランス部の通路
(中)●超高精細画像による文化財の検索システムを設置したレファレンススペース。館内モニターには、工芸品修復や庭園整備風景のライブラリービデオが常時流されている
(右)●地上階に設けられたミュージアムショップ
 
 鳳翔館は、もともとは昭和40年に建てられた旧宝物館の老朽化に伴って、5年ほど前から計画され、昨年3月にオープンを迎えた。所有者による「責任ある保管と保護」、そして共有財としての活用(公開展示)を基本理念とし、現時点でベストといえる収蔵環境を創出するとともに、寺内での修理・修繕を可能とするために修理室を地下階に設けているのが2つめの特徴だ。この修理室は空調を他から分離し、独立したフィルターと吸排気管を敷設した部屋となっているが、扉を開けることで展示室としても使用できる仕組みになっている。
 
 また展示においても、国内最大といわれるガラスウォールケース(高さ5メートル)を設置、独立展示ケースは5面が透過ガラスで変温恒湿のエアタイト方式で、個々に免振装置を付けた万全の安全対策が施されている。これによって、鳳凰堂では高所にあってはっきりとは見ることのできなかった雲中菩薩像なども間近でみることができるようになったが、それも「これだけの安全性が確保できなければ不可能だった」(神居住職)わけで、まさに現代の科学技術があればこその展示である。
 
(左)●ウォールケースと独立展示ケースに、52躯のうち26躯の国宝雲中供養菩薩を収めて常設展示する地下階の展示室「雲中の間」
(中)●正常設展示室のひとつ「鳳凰の間」。のぞきケースは車イスに配慮して低いタイプのものを採用している
(右)●鳳凰堂扉絵の復元模写コピーが飾られた「扉絵の間」。ここは独立して修理室としても機能するようつくられている
 
 このように最新の科学技術が注ぎ込まれていることが特徴の3つめであり、施設内ではデジタル技術によって描き出された創建当初の鳳凰堂内の再現映像が150インチスクリーンで放映され、地上階のレファレンススペースでは、約3億画素という超高精細画像による国宝検索システムを、拝観者が自分で操作して最大4000%まで拡大して微細な構造まで見ることができる。
 地下階では現物の国宝と対峙し、地上階では自ら主体的に文化財と関わっていく。単に保存・観察する道具としてあるのではなく「一種の参加体験型ミュージアムになっている」(神居住職)ことが、テンプルミュージアムのひとつのあり方を提示しているといえるかもしれない。
 
 


文化遺産を後世に伝えるだけでなく
現代に生きる人々にその意味を感得していただきたい

 
宗教法人平等院 住職
神居 文彰氏
 
 寺院が自らのもつ歴史的文化的資産を自ら次世代に伝えていくこと、しかも単に文化財として残していくのではなく、その意味も伝えていくことが大切だと考えました。文化財だから、国宝だからという理由で、本来の場から切り離されて保存されるべきではない。事物は、まさにその場にあるからこそ意味があるのです。
 
 ですから、寺内のものは寺内で修理・修繕していくというために、修理工房も設けましたし、また平安時代からの建造物と庭園を残す稀有な文化遺産として平等院の境内全体が博物的な施設であるとの視点から、平安時代の庭園を復元する庭園整備をすでに11年続けています。鳳翔館の建設もその一環として位置づけられ、建物も鳳凰堂の眺望を阻害しないよう大半を地下構造とし、なおかつ鳳凰堂の正面に立ったときに入口が見えないようにするといった配慮もしています。
 
 その点ではエコミュージアムともいえますが、何よりも、文化財を保護・伝承するという直線的な思考ではなく、平等院やさまざまな関係品の存在をどう人々に問いかけるかという広い視野に立って試行錯誤しました。文化財の公開は単なるパブリックサービスではありませんし、文化は人によって支えられ、時代とともに移ろうものです。現代の姿は過去の蓄積の総体であり、それが未来へとつながるわけですから、現代という時代に身を置く私どもとして、平等院の姿をいかに伝えるかのひとつの回答と受け止めていただければと思います。CGを駆使した復元映像や最新のデジタル技術など、科学技術を結集したのも、現代に生きる所有者の務めと感じたからです。文化財は過去というより未来からの預かりものでもあるわけです。
 
 もちろん宗教と切り離して考えることはできませんが、宗教というのは一方的な押し付けの思想ではありません。ですから、個々人それぞれの感じ方があっていいと思います。むしろ、そういう感性を喚起できる仕掛けをしたつもりです。たとえば照明なども展示品の個性を引き出せるようにあるところでは自然光を取り入れたり、光ファイバーを多用したりといった工夫をしています。その意味で、展示の解説文などはあえて目立たないように配置してあります。まず何を感じるか、自身の感性を大切にしていただきたいからです。そのうえで、知識を得たい方は解説や図録を読んでくださればいいですし、もっと深く知りたい方はレファレンスシステムをご利用いただけます。それは平等院全体へのアプローチの第一歩でもあるのです。庭園を散歩していただくのもいいですし、ベンチで眺望を楽しんでいただいてもいい。誰もが自由に自分なりに施設を体感できる仕掛けということからいえば、体験型ミュージアムだということもできるでしょう。
 
 感じ方の違いは個性であり、その個性を尊重することから人の関係が生まれる。それがミュージアムの目指すところでもあり、平等院の思想にも通じるものだと思うのです。 
 
 

データ 2002年6月現在

[所在地] 京都府宇治市宇治蓮華116
[オープン] 2001年3月1日
[事業主体] 宗教法人平等院
[敷地面積] 30,600m2
[建築面積] 816.42m2
[延床面積] 2,249.42m2
[構造・規模] RC造+S造、地下1階地上1階
[施設内容] 展示室、映像展示室、収蔵庫、 ミュージアムショップなど
[開館時間] 9:00〜17:00(12〜2月は9:00〜16:00)
[拝観料] 大人600円(500円)、中高生500円(300円)、 小人300円(200円)
(  )内は25名以上の団体料金

 


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