ケーススタディ
アクアワールド 茨城県大洗水族館

サイエンスミュージアムの要素を採り入れた参加・体験型水族館
多様な機能を併せもつ地域振興拠点として期待される

データ

 今年3月21日、茨城県大洗町・大洗公園内に「アクアワールド 茨城県大洗水族館」(アクアワールド・大洗)がオープンした。
 1970年に開館した旧水族館の展示スペースが手狭となり、展示内容も時代にそぐわなくなってきたことを受け、茨城県は95年3月に新水族館整備基本構想を策定。施設や展示物を大幅に拡張・充実し、展示・普及・研究の3つの機能を連動させるとともに、従来の水族館に博物館・科学館的な展示手法を採り入れた、海洋・茨城のシンボルにふさわしい“海の総合ミュージアム”として再生を図った。
 基本テーマ「茨城の海と自然・世界の海と地球環境」に基づき、身近な大洗の海の生物への興味から始まり、世界の海の生物の多様性や環境との関わり、さらには地球全体の環境について理解が深まる展示構成となっている。
 展示はテーマ別に次の8ゾーンで構成される。
 
出会いの海ゾーン
 群れをなすイワシなどが目をひく水槽「大洗の生物」のほか、黒潮と親潮が出会う潮目を表現した同館のシンボル「出会いの海の大水槽」では、80種・2万匹が約1300トンの水槽の中を遊泳する様子を観察できる。
 
暗黒の海ゾーン
 大陸棚から深海に生息する魚類、無脊椎動物、発光生物などを紹介。水槽での再現がむずかしいので、ホログラフィーやCGなど特殊映像を活用することで迫力ある展示空間を実現している。
 
世界の海ゾーン
 2つの巨大なサメ水槽をはじめ、飼育がむずかしいマンボウをグループ展示するほか、沖縄の珊瑚礁の生物、オホーツク海の多様な生物など世界の海の生物を展示。
 
●世界の海ゾーン2
 エトピリカ、ゴマフアザラシ、ラッコなど北の海の海獣・海鳥を水中・陸上の両側の視点から観察することができる。
 
森と川ゾーン
 開放的なアトリウムのなかに茨城の川(那珂川)の自然を再現。水源から上流・中流・下流とたどりながら、環境の変化とそこに生息する生物を観察できる。湧き水や汽水に生息する珍しい生物も展示。
 
●出会いのデッキ
 日本で初めてサケの放流を行なったことで知られる那珂川で生まれたサケを展示。
 
オーシャンゾーン
 屋外の開放的なテラスからは180度パノラマに広がる太平洋を背景に、アシカやオタリア、ペンギンを観察することができる。  また、オーシャンシアターではイルカやアシカのライブショー「イルカ・アシカオーシャンライブ」が楽しめる。観覧席は800席用意されているが、整理券の発行が間に合わないほどの盛況をみせている。
 
●ミュージアムゾーン
 水槽で見た生物の身体の構造や生態について、実験や観察をとおして学ぶことができるゾーン。
 「海の生き物科学館」は、直径3メートルの地球儀スクリーンを中心にプランクトン、海藻、ペンギン、サメ、クジラの5つのコーナーに分け、骨格の標本や剥製、イラストや鳴き声などで生物の生態や環境への適応について知ることができる。  「海の情報プラザ」は生物や地球環境、水族館についての情報を文字や音声、映像をとおして紹介するコーナー。「お魚発見教室」には、生物と実際に触れ合えるタッチングプールや実験観察ができるレクチャールーム、国内水族館としては最大規模の屋内プレイ遊具キッズランドを設けた。キッズランドは、子どもたちが魚になったつもりで、遊びながら海の生物や自然と親しめる構造となっている。
 
 このほか「マーケットプレイス」にはオリジナルグッズのほか、地元商工会が中心となって地場の海産物やそのほか特産品を販売するギフトショップ、  店舗が出店したフードコートが配置されている。
 展示水槽数は60、展示水槽水量は約4100トンの規模。展示生物は約580種・6万8000点に及ぶ。
 展示面だけでなく、教育普及プログラムの充実も同館の特徴である。
 出会いの海の大水槽にダイバーが潜水し、観客と対話しながら普段は見ることのできない魚の表情をスクリーンに映し出し、生態を解説する「アクアウォッチング」、お魚発見教室を会場に身近な海の生物を標本や映像、実験・観察などをとおして楽しく学ぶ「なるほど魚っちんぐ」を毎日定期的に開催している。
 
 そのほかの取組みとして、水族館のバックヤードを公開する試みがある。館内見学コースの途中に、ガラス越しに水槽設備や調餌室を覗けるスポットを設けてあるほか、スタッフの解説を聞きながらバックヤードを歩く水族館探検ツアー(1日3回)も実施している。
 「いまは表側だけでなく、裏側を見せることも大事。これこそ、まさに“開かれた水族館"であり、『こんなところまで見ることができる』と感激されるお客さまが多い。調餌室の餌を見ながら、子どもに一生懸命説明している父親の姿もよく見かけます」(アクアワールド 茨城県大洗水族館 参事兼副館長  舟橋正隆氏)。
 
 オープンから2か月余りで50万人が来館、GW期間中には14万6000人が来館した。年間集客目標は100万人。
“海の総合ミュージアム”であると同時にアミューズメント性も兼ね備え、食やショッピングも楽しめるレクリエーション施設、にぎわいを創出する観光施設としても大きな期待が寄せられている。
 


 
瀬尾 宗二氏/(財)いばらき文化振興財団 アクアワールド 茨城県大洗水族館 館長
 
学びと遊びの混在する多様性と
展示・普及・研究の連動が魅力

 

―オープン後、2か月余りで50万人、GW期間中には14万6000人のお客さまが来館されています。これほど多くの来館者を迎えられている要因は。
 
瀬尾 21世紀にふさわしい「地球環境」をテーマとし、従来の水槽中心の展示にとどまらず、科学館的・博物館的な要素を加えた斬新な施設であるという点、さらには県と水族館が一体となってPRに努めた結果、その斬新さや魅力が多くの人に伝わったことなどが奏功したと分析しています。
 
―館内に大型プレイ遊具を設置したり、ミュージアムショップに併設して観光物産コーナーを設けたり、他の水族館ではみられないユニークな展開をされていますね。
 
瀬尾 当館は、海を通した環境教育の場としての生涯学習施設、自然保護と種の保存に対する実践の場としての環境保護施設であると同時に、地域の文化と経済に貢献する観光ネットワーク拠点、さらにアミューズメントの要素を多分にもったレクリエーション施設という役割を担っています。学ぶことと、食やショッピングも楽しめる多様性に富んだ複合的な施設展開を試みているわけです。
 大型プレイ遊具の「キッズランド」は、漁網や魚篭など漁業に使用される道具や海の生物などをモチーフにデザインされました。レクチャールームやタッチングプールとともに「お魚発見教室」を構成しており、遊びながら生物や環境に親しめるコーナーになっています。 
 マーケットプレイスにある観光物産コーナーは、地元商工会が中心となり、地場産業である海産物や地元産品等を材料とした加工品を提供しています。
 
―大洗水族館のみどころは。
 
瀬尾 大洗の海の特徴である潮目を表現した大水槽「出会いの海の大水槽」はもとより、エンターテインメント性とミュージアム機能が連動した展示などは、当館ならではの魅力といえます。  科学館・博物館的な展示で学ぶことができるのが、ミュージアムゾーンの「海の生き物科学館」です。プランクトン、海藻、ペンギン、サメ、クジラの5つのコーナーで構成していますが、地球生態系という大きな視点で捉えた展示は奥が深いと評価されています。
 
―水槽展示では、サメ水槽の迫力が圧巻です。
 
瀬尾 世界にはおよそ400種のサメが生息しているといわれていますが、サメ水槽ではその1割に当たる約40種・300点を飼育展示しています。これも他にはない特徴です。旧水族館当時からサメの飼育技術に対して周囲から高い評価をいただいています。トラザメの稚魚が卵の中にいる時期から孵化するまでの過程を観察できる展示は、職員の日ごろの研究と努力なくしては実現しませんでした。
 
 また、今後力を入れていきたいのがマンボウの研究です。当館では1つの水槽にマンボウをグループで飼育展示していますが、実はこれはとても貴重な光景なのです。マンボウは非常に神経質なうえ気質の荒い一面ももち合わせていて、お互いに傷つけ合うことも珍しくないからです。当館での研究が、謎が多いとされるマンボウの生態解明に一役買うこともあるかもしれません。
 研究で得られたデータを展示に活かし、さらには教育普及活動も連動させた当館ならではの活動に取り組んでいきたいと思っております。
 
―今後、新たに取り組むことがありましたら教えてください。
 
瀬尾 今年度から完全学校週5日制が導入され、総合的な学習の時間が設けられたことを受け、当館も学校との連携を含めて、積極的に支援態勢を整えていきたいと考えています。
 すでにいくつかのプログラムを実行に移していますが、今後さらに内容の充実を図っていく予定です。
 

(2002年6月)


 
水谷 光良氏/(株)環境デザイン研究所 環境計画部 部長
 
アミューズメント性を
巧みに盛り込み
施設の付加価値を高める

 

―前面に海が広がっている点を設計に活かされていますね。
 
水谷 海側を大きな窓にして屋外との連続感・一体感をもたせ、“海に開かれた水族館”を意識した空間構成になっています。
 水槽展示ゾーンは、浅瀬から深海、世界の海を経て、水源の森と川から大洗の海に戻ってくるという動線に沿って、明るい空間と暗い空間のメリハリのある演出を行ないました。各ゾーンに合わせて、ウォーターレベルが上昇・下降するような感覚をもたれるような配慮も加えています。
 
―水槽展示での工夫は。
 
水谷 「出会いの海の大水槽」は暖流と寒流が交錯する潮目を再現しています。単に大洗沿岸海域に生息する生物を展示するだけでなく、潮目の海の概説的な紹介を大型スクリーンに上映するほか、ダイバーと観客の対話をとおして魚や水環境を解説するプログラムのなかで潮目の海の生物の特徴を紹介しています。
 また、アクアワールド・大洗には「出会いの海の大水槽」のほかにも、サメの水槽、マンボウの水槽の3つの大型水槽があります。世界の海ゾーンでは中央デッキからこれらの水槽がぐるりと見渡せるようにし、巨大な水の塊の中に入り込んでいるような空間をつくっています。複数の目玉水槽のインパクトを最大限に活かしつつ、空間的・デザイン的にも無理なく見せられているのではないでしょうか。
 
―水族館に科学館的な要素を取り入れるのは最近の傾向になっていますね。
 
水谷 水族館は魚が「きれいだ」とか「珍しい」という魅力だけでも集客できます。しかし、それだけではもったいない。なんらかのプラスアルファで施設価値を高め、お客さまをよりひきつけたい、もう一歩踏み込んで地球の水環境全体への興味を広げていただける施設にしたいという思いがありました。
 
 ミュージアムゾーンを水槽展示のプロローグやエピローグではなく、展示の中央に置いているのは初めてではないでしょうか。展示内容も、プランクトンや海藻にまで目を配り、海の生物全体のつながりを捉えた点も珍しいと思います。
 ミュージアム展示で工夫した部分としては、映像の活用があげられます。水族館には本物の生物という魅力的なコンテンツがありますから、映像の吸引力は弱くなりがちです。しかし、映像でなければ表現できないものもたくさんあります。
 
 今回の目玉のひとつが、暗黒の海ゾーンの「深海シアター」です。ホログラフィーによって深海の不思議な生き物が紹介され、壁面の一部はブラックライトや映像などを使って深海の景色を演出しています。その横では「マッコウクジラとダイオウイカの格闘」という迫力あるCGの大型映像が上映されています。
 また、ミュージアムゾーンの「海の生き物科学館」にある直径3メートルの球体映像「水惑星地球」は、約1分半のショートプログラムをオムニバス形式で繰り返し流し続けるというもので、解説を交えたものと環境映像的なものを組み合わせることで、気軽に楽しんでもらえるものになっています。
 
―アクアワールド・大洗のスタンスをよく表わしているのが「キッズランド」ですね。
 
水谷 学びと遊びがミキシングされている部分です。根底にはたくさんのファミリーに利用していただきたいという狙いがあります。低年齢の子どもが遊べる場所があるのとないのとでは、利用のしやすさが大きく違ってきます。当社では、遊具は初期のころから手がけている分野ですので、ごく自然な発想なのですが、水族館に大型プレイ遊具を設置したのは非常に珍しいケースだといえるかもしれませんね。
 
 いま、お客さまのニーズは複合化されています。水族館でも「海を見ながらお茶を飲みたい、できれば子どもも遊ばせたい」というように。アクアワールド・大洗は水槽展示だけでなく、ミュージアムがあり、太平洋をのぞむレストランやマーケットもあり、子どもたちが遊ぶところもある。お客さまの多様なニーズにお応えできる施設となっているのではないでしょうか。
 

(2002年6月)

データ 2002年6月現在

[所在地] 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町8252-3
[連絡先] TEL.029-267-5151
[オープン] 2002年3月21日
[事業主体] 茨城県
[運営・管理] (財)いばらき文化振興財団
[設計管理] (株)環境デザイン研究所
[敷地面積] 約58,000m2
[延床面積] 19,787m2
[構造・規模] SRC造・地上5階建一部7階建
[展示水槽数] 60
[展示生物数] 約580種・68,000点
[総水量] 約5,100t(展示水槽水量:約4,100t)
[施設内容] ●出会いの海ゾーン
大洗の生物/海藻の海/出会いの海の大水槽/タイドプール
●暗黒の海ゾーン
クラゲの仲間/発光する魚/深海シアター/大陸棚の生物
●世界の海ゾーン
マンボウ/サメの海/深海のサメ/サメの子供たち/サンゴの海/沖縄の海/カリブ海/紅海/タスマン海/オホーツクの海/おもしろ生物
●世界の海ゾーン2
エトピリカ/ゴマフアザラシ/ラッコ
●森と川ゾーン
サケの子供たち/上流の自然/サワガニ/中流の自然/イトヨ/下流の自然/汽水の生物/展望ホール
●出会いのデッキ
サケの海/熱帯の水草/企画展示室
●オーシャンゾーン
オーシャンシアター/フンボルトペンギン/オタリア/カリフォルニアアシカ/アクアホール
●ミュージアムゾーン
海の生き物科学館/海の情報プラザ/お魚発見教室/ミュージアムショップ/コーヒーショップ
●マーケットプレイス
ギフトショップ/フードコート/多目的スペース
[総事業費] 約165億円(うち建設費150億円)
[入館料] 大人1,800円、小・中学生900円、幼児(3歳以上)300円 *団体割引、学校特割あり
[開館時間] 9:00〜17:00
*2002年9月1日までは9:00〜19:00
[休館日] 年末年始、6月の第4月曜日とその翌日、12月の第2月曜日とその翌日、館内整理期間
[集客目標] 100万人(年間)

[戻る]

このページに掲載の内容、写真などの転用をお断りします。
Copyright 2002 TANSEISHA.co.,ltd.
All right reserved.