ケーススタディ
電気の史料館

巨大な実物展示で魅せる
「大きい〜ことはいいことだ!」という山本直純さんの有名なコマーシャルが大流行したのは、今から30年ほど前だろうか。以前紹介した、鳥取二十世紀梨記念館の入口には、シンボルツリーがある。巨大な梨の木が聳え立っている。形もいいのだが、見学者はまずその大きさに驚く。大きさが人を魅了する。大きいことはいいことだ。
今回、紹介するミュージアムは、文章や写真でわかってもらえるのは何分の一かもしれないが、とてつもなく巨大な実物を展示している。実物の本物の迫力を、存分に楽しんでいただきたい。

 
日本の近代化を支えた電気の歴史を体系化し
実物展示によりものづくりの精神を伝える

データ

 横浜市鶴見区に昨年12月オープンした電気の史料館は、まさに実物の迫力に圧倒される施設である。
 
 同館は、東京電力(株)の技術開発センターに隣接する、既存建物を活用して設けられたもので、同社の創立50周年記念事業の一環として位置づけられている。構想自体は同社が87年に行なったCI活動に伴って発案され、その後、実機をはじめ電気に関わるさまざまな歴史的資料の収集が行なわれながら、今回の史料館建設へと至っている。
 
 館内は、明治以降現代に至る電気技術史のなかで着目すべき技術主題に焦点を当てながら紹介する時系列展示と、個別の技術に焦点を当てながら内容を通史で紹介するテーマ展示の二つの側面からなり、同社がこれまでに収集した収蔵品に加え、今回のプロジェクトのために新たに購入した史料や、国内外の企業の協力を得て貸与を受けたものも含めて5000点の史料から選りすぐって約740点の実物が展示されている。これによって、わが国の電気技術史の流れを体系的に捉えることができる。
 
 「電気はわが国の近代化を支えたインフラです。つまり、わが国の近代化の歩みが電気事業の歴史でもあるわけですが、100年以上にわたる歴史のなかで設備の更新とともに失われていく技術もあるわけです。ですから、電気づくりにかけた先人の知恵と努力、そこに込められた精神を引き継ぎ、次代へ伝えていく必要があると考えたのです」(館長・田中秀雄氏)
 
 というように、電気が産業を興し発展させ、日本人の豊かな生活を支えてきた、まさに日本の背骨であることは紛れもない事実だ。したがって同館は、東京電力の企業博物館であると同時に、わが国の近代産業の足跡を刻み込んだ産業歴史館の性質を併せもつものであるわけだが、ただ歴史を知るということ以上に、「実機のなかに込められた技術をそのまま見ていただく」(田中氏)ことを重視し、安定した電力を供給するためにさまざまな工夫をし、努力を重ねてきた先人の技術と知恵を実感してもらうことを意義としている。だから、展示するものは実物でなければならず、また実物だけが語りうるメッセージが込められているのである。
 
 発電、送電に関わる設備・機器は一つひとつが非常に大きく、それを運び込むために建物の補強工事として、柱や基礎抗の打ち直しをしなければならなかったという。それほど巨大な実物が放つ迫力を感じるためには、実際に足を運んでいただくしかないが、大きさのもつ迫力だけが同館の魅力ではない。そのそばには、雪深い山奥で、あるいは危険な高所で、常に安定した電気を供給するための作業に携わってきた人々の、人知れない苦労と努力を示す展示(かんじきや熊よけの鈴など)もあり、そこに百万言を費やしても説明できない先人たちの“思い”を感じ取ることができるはずだ。もちろん展示パネルや映像による解説もあるが、それ以上にモノが語りかけてくれる感動があるのである。
 
 そして、約80分をかけて行なわれるガイドツアーでは、これまで電気事業に携わってきた技術者自らが、自分たちの言葉で経験やエピソードを交えながら訥々と解説をしてくれる。そこにも単なる解説員が発するのとは違った重みがあり、それがまた静かな感動を呼ぶ。いわば人とモノが一体となって語りかける展示なのである。
 
 「これまで、専門家の方や学生、家族連れなど1万人近い来館者がありましたが、今後はインターネットや新聞などのメディア、あるいは科学講座の開設などを通じてもっと積極的に情報を発信していきたいと考えていますし、展示の更新や特別展、併設する文書館の資料の充実なども図って、より多くの方々に利用していただけるよう努めていきたい」(田中氏)としている。
 


 
古見 修一氏/(株)SD 代表取締役
 
実物だけがもつ迫力と
感動を表現する展示を追求

 

―設計にあたって、今回の特徴を挙げると。
 
古見 まず、実物ありきということですね。以前から実物や史料の収集・保存は行なわれてきましたので、実際に何があって、何がないのかを調べることが設計のはじめで、それに基づいて、“実物から展示のストーリーを組み立てていく”という、従来とは逆の手法をとったことが特徴といえます。
 また、日本の電力事業の歴史をその始まりから語る施設でもありますから、国内にあるものだけではなく、アメリカ・ヨーロッパを調査しその歴史的なエポックになる実機を収集し、国内外の企業から協力を得て、実機史料としてきちんと体系づけたことも大きな意義といえます。
 
―展示面でのポイントはどのようなところでしょう。
 
古見 やはり巨大な実物をきちんと見せるということが最大のテーマでした。ヨーロッパでは「ラーニングエクスペリエンス」という概念があり、これは日本語で表現すると“感動体験”ということになりますが、実物のもつ迫力と対峙することで感動する体験をつくり出したかったのです。発電機の仕組みをあれこれと説明されるよりも、実物を見れば誰でも驚きます。これが日本で初めて導入された直流式の発電機なのかと。そういう実物を見る驚きの体験が感動になるわけです。いわばモノ自体が語ってくれる点といえますが、バーチャルではけっしてつくれない感動が実物にはあるのです。ですから、技術的、歴史的意味を持つ実物の物語を、いかに実物に語らせるかが重要だと考えました。
 
―最も苦労された点は。
 
古見 一番大きかったのは実物の大きさの問題です。既存の建物を利用しているので、何十トンという巨大な重量物を置くためには基礎や柱、床などすべてに 補強が必要でした。その作業と何をどこに置くか、いつ搬入するかといったことが同時進行していたのです。置き場所がちょっとずれただけでも建物に影響が出てしまうことがありますから、配置することがすなわち、デザインであり、基礎工事であり、展示工事でもあったわけです。そこが面白い点でもあったのですが、短い時間では厳しかったですね。
 
 ただ、照明計画なども何が来るかわからない時点で設計する必要があったので、ある程度大きなものを想定しながら、空間としての照明、実物・実機への照明をコントロールできる手法をとりましたし、2階へ上がる螺旋階段を光の柱にしてサインの機能をもたせる、あるいは既存の柱のスパンをテーマやゾーンの区切りに活用するなど、時間的な制約や空間的制約があるがゆえに新しいアイデアや工夫が生まれたのも確かです。
 

(2002年4月)


データ 2002年4月現在

[所在地] 神奈川県横浜市鶴見区江ヶ崎町4-1
[連絡先] TEL.045-394-5900(代表)
[オープン] 2001年12月15日
[事業主体] 東京電力(株)
[展示設計] (株)SD
[展示面積] 約4,000m2
[施設内容] ●展示コーナー
オリエンテーションホール電気の科学、日本人と電気の出会い、火力発電所による電力供給網の誕生と発展(明治中期〜)、水力発電と長距離送電のはじまり(明治末期〜)、広域供給網の形成(大正期)、電気と社会ネットワークの形成と運用、発電所の大容量化・高効率化(戦後高度経済成長期)、電源の多様化とベストミックスの推進(戦後安定成長期)、原子力発電のあゆみ、電気は人なり 企画展示スペース(2002年6月まで開館記念特別展「エジソン展」を開催)
 
●主な展示物
エジソン式直流発電機、金谷ホテル水車発電機、旭変電所同期調相機鬼怒川線鉄塔信濃川発電所水車発電機旧千葉火力発電所タービン発電機、皇居正門石橋飾電灯など
 
●その他の施設
ミュージアムショップ、ミュージアムカフェ
 
●併設
電気の文書館(電気技術に関する文献・映像史料約4万点)
[総事業費] 約40億円
[入館料] 大人500円、高校・中学生300円、小学生200円(団体割引あり)
[開館時間] 10:00〜18:00(入館は17:30まで)
[休館日] 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
電気の文書館は9:30〜17:00(土・日祝日、年末年始休館)

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