
■ケーススタディ
ITの効果的な活用と斬新な展示手法によって、
感性を育む国内最大規模の科学博物館
国立科学博物館 新館
2004年11月2日、東京・上野の国立科学博物館に「新館」がグランドオープンした。
この「新館」は、本館の隣接地に展示階が地下3階地上3階の規模で建築された。工期は2段階に分けられ、1999年に展示面積約2900m2の規模で建設された第1期施設が開館しているが、今回の第2期施設の完成により、展示面積は約6000m2増加した。新館全体で約8900m2になり、国内の科学系博物館では最大規模となった。
「地球生命史と人類―自然との共存をめざして―」を新館全体のテーマとして打ち出し、これを基に各展示フロアの内容がつながるとともに、それぞれのフロアごとにもテーマ性を重視した展示展開を行っている。そうした考え方に基づき、映像・音声・照明演出など斬新な手法を用いた展示演出に力を注ぎ、迫力を体感し感動できる展示を実現した。
展示は最新の研究成果を基に、実物標本資料を中心に構成されている。"本物"による質感・存在感を感じ取り、標本資料とじっくり向き合うことができるように展示されている。
また、幅広い利用者の目的や興味・観覧時間に応じ、見たい展示に直接アプローチできる選択的・自主的な動線を採用した展示構成となっている。さらに"ゆとりのある空間"を目指し展示配置を工夫しただけでなく、休憩や情報提供、教育普及活動など多目的に利用できるスペース「ディスカバリーポケット」を各展示フロアに設け、利用者の多様なニーズに対応している。
この「新館」では、第2期施設の公開に伴い、新館全体にITシステムを積極的に導入している。展示コーナーごとにタッチパネル式情報端末が設置され、動画や文字情報などによる解説が、日本語だけでなく外国語(英語、中国語、韓国語)、子ども用(日本語)でも提供されている。それに加えて、展示解説情報をネットワーク化することにより、展示解説が最新情報として提供することが可能になるとともに、Webにおいても展示解説の一部が閲覧できる。
また、館内で見学した履歴を記録することができる「ICカード」を希望者に無料で貸し出している。同カードを使用すると、館内のどこを見学したかという履歴を残すことができる。同カードで登録された情報は、対応したIDカード(パスワード付き)を持ちかえることによって、自宅や学校のPCなどから確認できる。国立科学博物館のWebサイトにアクセスし、パスワードを入力して、館内で見学した履歴を確認することができる。この仕組みにより、展示情報の予習・復習を含めた学習情報としての活用が可能となった。
さらに、音声解説を聞くことができる携帯端末(PDA)を希望者に有料(500円)で貸し出している。ナレーションにはニッポン放送のアナウンサー、うえやなぎまさひこ氏を起用し、見学者の立場から同館の研究員に質問をするという会話形式によるやさしい表現の興味深い内容となっている。PDAは日本語版のほか英語版、中国版、韓国語版を現在製作中で17年3月完成予定である。
本館については開館以来初の大幅な展示内容の変更による改装工事に入り、およそ2年後のリニューアルオープンを予定している。
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(左)●「大地を駆ける生命」は、楕円形のケースの1角を占めるガラスデッキに上がり、動物を一堂に見渡すことができる。大型スクリーンでは、東アフリカで1年を要して撮影したヌーの映像番組「生と死の原野」を鑑賞できる
(右)●3階「大地を駆ける生命」では、世界的規模の大型哺乳類剥製標本「ヨシモトコレクション」他、良質な剥製標本を多数展示。横25m、高さ5mの楕円形のケースに115体の哺乳類の剥製が並ぶ。さらに奥の壁には164点の鳥の標本群も備える。これだけの種類の野生動物を間近に見られる空間は世界でも珍しい
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(左)●エントランス脇の「PDA・ICカードカウンター」で、PDAとICカードの貸し出しを実施中
(右)●JR上野駅側から見た新館。現代的な造りとなっている
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(左)●2、3階に展開する「たんけん広場」は、実験装置を動かしたり、標本に触るなどの体験を通じて、自然に対する興味関心を高め、自然の不思議さ、面白さを発見できるように工夫した展示室。3階の「たんけん広場‐発見の森‐」では雑木林の自然が再現されている
(中)●2階「たんけん広場‐身近な科学‐」では、音、光、力、運動、電気、磁気などの現象をいろいろな装置を動かしながら体感し、実験することができる
(右)●2階「科学と技術の歩み」。ここでは江戸時代以降の日本の科学技術がわが国の自然や文化に根ざしつつ、外国の文化を受け入れながら発展してきた歩みを紹介
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(左)●1階「系統広場」では、多様に進化した生物の分岐をガラスの壁一面に展示。ガイドコンピューターの操作で、生物の進化を床のライトで辿ることができる
(中)●第1期に完成した1階「海洋生物の多様性」は、生物の展示の中でも人気がある海の部分を先行し展示
(右)● 子どもに人気の恐竜を展示した地下1階の「地球環境の変動と生物の進化」では、ティラノサウルスなどの骨格が迫力のある展示で展開
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(左)●「地球環境の変動と生物の進化」は、階段を上ると、恐竜骨格を上から見渡しながら、至近距離で見ることができる
(中)●地下2階入口部分の「46億年の散歩道」ではマグマをイメージさせる赤色の照明演出で印象づけられている
(右)●各階に設置されている「ディスカバリーポケット」では、土・日・祝日に各研究部の研究員が交代で、展示や研究内容などについて解説、質疑応答などを行う「ディスカバリートーク」という新しいプログラムを行っている
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(左)●新館屋上にある「ハーブガーデン」では薬用、食用、染料、香味料用など、約160種類のハーブを育成している
(中)●「かはくミュージアムショップ」では、国立科学博物館の所蔵品を再現したオリジナルフィギュア、実物標本、実験・観察・工作キット、書籍などを扱う
(右)●新館中2階のレストラン「ミュゼ・バサラ 上野」 は、団体客にも対応できるよう137席を確保。国立科学博物館ならではのオリジナルメニューを提供している
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都川
匡史氏 /
国立科学博物館 新館U期展示推進室 新館U期展示主幹
実物標本を中心に
"本物"の迫力・存在そのものを体感できる
展示を実現しました
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国立科学博物館の本館は、昭和5(1930)年に建てられたもので、建物の設備自体の老朽化が進んでいたことに加え、以前から5号館まであった展示施設全体が狭隘で見学動線も複雑でわかりにくいという問題がありました。このため本館を全面的にリニューアルするとともに、わが国の国立の博物館として世界に誇れる科学系博物館を目指して、新館を建築することになりました。
新館の建設は工期を2段階に分け、計画から数えると11年間にわたり、建物づくり、展示づくりを進めてきました。今回の新館展示では、「地球生命史と人類」を大きなテーマにおき、「私たち人類がこの地球で生きていくためには自然との共存が重要」という今日的なメッセージを提示し、「自然と人類が共存可能な未来を築くために、私たちはどうすればよいか」見学者のみなさまと一緒に考えていく展示づくりを目指しました。
展示構成において一番力を入れた部分は、最新の研究成果を反映するとともに、実物標本を中心に、体系的に配置した展示を行ったところです。可能なかぎり実物標本にこだわったのは、見る人に実物がもつ迫力や美しさなどの見ごたえを感じていただきたかったからで、たとえば、3階「大地を駆ける生命」の哺乳類の剥製の展示では、あえて個々のラベルも表示しないなどグラフィックスによる解説を極力少なくし、動物の大きさや重量感、質感、存在感そのものを感じてもらうことを狙いとしています。しかし、解説がないのではなく、展示情報端末では、標本一点ごとに生きている姿を見ることができる動画も含めて充実した解説を展開しています。
また、展示物だけではなく空間そのものを感じてもらうために照明演出にもこだわりました。展示が印象に残ることで、家に帰ってからでも"調べる"という行為が生まれると思います。このように疑問や関心を持つきっかけをつかみ、主体的に知識を深めるために調べるという行為を行ってもらえればと願っているわけです。もちろんその行為に応えられるだけの十分な情報を私たちは用意しています。展示の解説情報の一部は国立科学博物館のWebサイトとリンクされており、自宅から展示情報を学習情報として得ることができます。ICカードを使えば、見学したコーナーを記録し、その解説情報を確認することができます。
また、展示場で展示解説を得る手段としてPDA(携帯端末)もあります。PDAを導入するにあたり、「携帯端末としてどのような解説をすれば良いか」ということを利用者の視点で考えました。画面での情報が主ではどうしても画面ばかり見てしまいがちになります。そこで「実物標本をじっくり見てもらいたい」という思いから音声ガイドを中心とした解説を取り入れました。日本語版は会話形式になっており、ラジオ感覚で聞くことができます。ITシステムは利用する側と提供する側の交流ツールとして活用しています。とくに子ども向けの解説を作ったことはアンケートでもわかりやすいと好評を得ています。さまざまな利用者に対応できることがITのメリットだと思います。ITシステムを積極的に導入することで解説情報の充実を図るとともに、利用者の立場を考えて、もっと理解してもらえるサービスを提供していく予定です。
さらに地下1階に特別展示室を設置し、当館ならではのテーマ設定による特別展を展開していきます。本年3月19日から開催する「恐竜博2005」は、単なる恐竜イベントではなく、恐竜研究で国際的なネットワークを持つ当館の強みを活かして、実物標本を多数展示するなど充実した内容になっています。
当館は、国民の皆様から支持されて成り立っている施設ですので、多くの皆様に「科博は楽しい、また行きたい」と思ってもらえる魅力ある施設にしていきたいと考えています。今後も様々なニーズに対応したサービスを提供し、足を運んでいただけるよう、ソフト面の強化を図っていきたいと考えています。
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関連サイト:
国立科学博物館
データ 2005年4月現在
| [所在地] |
東京都台東区上野公園7-20 |
[国立科学博物館新館
グランドオープン] |
2004年11月2日 |
| [事業主体] |
独立行政法人 国立科学博物館 |
| [構造・規模] |
SRC造・地下4階地上3階建(展示階地下3階、地上3階) |
[展示面積]
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6,000m2(U期部分)
8,900m2 (新館全体) |
| [施設内容] |
常設展示(7,800m2。自然科学から科学技術までの多分野にわたる展示10,578点。2004年11月現在)、特別展示室(6,100m2)、レストラン「ミュゼ・バサラ 上野」(137席)、「かはくミュージアムショップ」
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| [開館時間] |
9:00〜16:30 |
| [休館日] |
月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始 |
| [入館料] |
一般・大学生420円
小・中・高校生70円(土曜日は無料)
(平成17年4月から、一般・大学生500円、小・中・高校生は無料) |
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