トーク * 対談
 東大の挑戦 産学連携プロジェクトの現状

 
[対談]

  東京大学 総合研究博物館教授
  (ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門担当)  西野 嘉章 
  [聞き手]株式会社丹青社 代表取締役社長 渡辺 亮
 
ミュージアムは文化的社会遺産
この資産の流動化が21世紀の
ミュージアムのキーワードになる

 

 
 「21世紀のミュージアムのかたち」を彫琢するための『博物館デザイン工房』として発足してから約2年、東京大学総合研究博物館ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門は、この間、主要な研究課題のいくつかについて方法的な実験を実施。展示企画・デザインの分野においては、小柴昌俊名誉教授のノーベル賞受賞を記念した「ニュートリノ」展をはじめとして、オランダ・ライデン大学との国際共同展示「シーボルトの21世紀」展、広島・長崎の被爆試料を展示した「石の記憶---ヒロシマ・ナガサキ」展など、東京大学の学術遺産を活かした企画展で先端的な展示デザイン・技術の試みを行ってきた。なかでも「石の記憶」展は、ディスプレイデザイン賞2004のディスプレイデザイン大賞と2004年度グッドデザイン賞を受賞したほか、「石の記憶」展に関する研究成果として提出した「学術とデザインの融合による展示効果についての研究」がディスプレイデザイン企画・研究特別賞とディスプレイ産業賞のディスプレイ産業特別賞に選ばれるなど、その成果をあげている。
 
日本のミュージアムの現状に対する危機感から
ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門を設立

 
渡辺 私たちは永年、ミュージアムづくりに携わってまいりましたが、21世紀を迎えた今、ミュージアムそのものも一つの転換期を迎えているように思っております。そのような中、21世紀ミュージアムについて、様々な角度から可能性を探るミュージアム・テクノロジーという研究に本格的に取り組もうとお考えになった東京大学に当社も協力させていただくことになり、現在にいたりました。それでは、まず、西野先生がご担当されているミュージアム・テクノロジー寄附研究部門について、設立の狙いとその内容についてお聞かせいただければと思います。

 
西野 私はいま、日本のミュージアムの現状に非常な危機感を持っています。 日本はいまや5000館を超えるミュージアムを擁する博物館大国ですが、 ハコモノは数多くできても運営に関してはまったく将来性が見えない状況にあります。 これをなんとか有効利用しなければと思っていたところ、同じ認識をお持ちだった丹青社から 資金的・人材的支援をいただき、ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門の設立に至りました。
 
 私はミュージアム・テクノロジーという言葉以外に「博物館のデザイン工房」という言い方をしていますが、 これには自由で実験的なコラボレーションができる場という意味が込められています。 われわれのスピリットと民間企業として長い経験のある丹青社の技術や実践的なノウハウが結び付けば、 きっと面白いアイデアを社会に送り出すことができるのではないかと考えました。
 
東京大学・西野嘉章教授
 東京大学・西野嘉章教授
 デザインという言葉の本来の意味は「企画」ということです。 「デザイン工房」のデザインは、その意味で使いました。 博物館に何ができるかを総合的に考える場というのが「デザイン工房」の趣旨です。 これまで欠けていたのはそうした総合的・実験的アプローチなのだと思います。 5年、10年、50年先のミュージアムのあり方を視野に入れながら、 近視眼的な考えに終始しているミュージアムの現状に、一矢報いることができればと思っています。
 
 学問でも産業でも、分野ごとに自閉的であるのが日本の特徴です。 狭苦しい垣根を取り払って異業種間でコラボレートできれば、1+1が2でなく、3にも4にもなる可能性があります。 産学連携の根本にあるのはそういうことです。異業種間では利害関係がないために意見の交換が自由にできます。 博物館建設の現場で第一級の仕事をしている丹青社に対しても、私は自由にものを言うし、 丹青社の方は大学の悪しき慣習に対し、全く白紙でものが言える。 これが好ましいコラボレーションのあり方だと思います。
 
(株)丹青社社長・渡辺亮
 (株)丹青社社長・渡辺亮
渡辺 ご指摘のように日本のミュージアムは転換期にきていると思います。将来の新しいミュージアムの在り方を探求する東大の研究部門と私どもの経営戦略に一致するところがあって、今回の産学連携が実現しました。永年、ミュージアムに関わって培ったノウハウを持っていることと、企業としての社会的責任や貢献を果たしたいという思いもあって、東大との連携を行ったわけですが、今回の「ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門」の立ち上げによって、社会に与えたインパクトは非常に大きなものだったと思います。今後とも各方面へ積極的にこの取り組みを展開していきたいと考えています。

 
 
(左)●「ニュートリノ」展
(右)●「石の記憶−ヒロシマ・ナガサキ」展
展示写真撮影:奥村浩司
 
 
大学の研究成果と
民間のノウハウの融合に力点をおいて
前進していきたい

 
西野 丹青社は店舗設計も数多く手がけられていますが、ミュージアム的な要素がどんどん店舗設計などに流れ込んでいるように感じますね。
 
渡辺 確かに商業施設と文化施設の垣根がなくなってきているような場面がけっこうあります。 商業施設のショーウィンドーには、デザインの凝縮があったり、文化の発信があったりしますが、 ああいうものをミュージアムの展示の中にも入れていかないといけないと思います。 つまり見せるためのテクニックが必要ではないかということです。
 
西野 そういう意味では、博物館の展示がデザイン大賞を受賞するというのはすごいことです。ミュージアム事業のあり方において、大きな転換期になるのではないかという気がします。

 
渡辺 DDA(ディスプレイデザイン賞)の審査会でも、久々にミュージアムのあるべき姿が実現されたとのコメントもあったようです。
 
西野 ミュージアムは文化的社会資産などといいますが、この資産の流動化のノウハウが今後のキーワードではないかと思います。たとえば展示キットをつくり、ランニングコストを下げて合理的に巡回を行うというのも流動化の一例です。コレクションの流動化でいうと、5年計画で複数の館で相互に資産を貸し合うとか、それを3館で行えば選択肢はさらに拡ります。人材もそうです。1人の人が1つのミュージアムでアイディアを実現化させるのに3〜5年かかるとすれば、次々にヘッドハンティングして、より新鮮なインパクトのある人を呼んで通年を通して素晴らしい企画展を行えるようにするとか。ネットワークをつくって展示の巡回を行うという方法もあります。巡回展の可能を極限まで追求していくと、遊牧民が自らの生活環境を場所場所で組み立てたりたたんだりする「パオ」のような博物館概念も考えられます。
 
渡辺 先生の提唱されている「パオ」という考え方も文化の流動化に繋がりますね。
 
西野 極端にいうとコレクションをレゴ(玩具)にするという発想です。これからは最初から器をつくらないという発想だってあると思います。キットをつくる、キットを組み合わせて新たなキットをつくる。「パオ」の発想では、そうしたミュージアムキットができれば、莫大な先行投資をしなくても、ある場所に突然ミュージアムが出現するということも可能になるかもしれません。
 
渡辺 キットだとかコンテンツのデザインの次にくるのがミュージアムのシステムデザインです。 「パオ」ではミュージアム・テクノロジーをシステムデザインまで持って行くこともできます。 これを使えば、非常に簡単にミュージアムの設営ができる。 こうしたインフラやシステムの可能性を詰めていけば、新たな産業にも結び付くのではないでしょうか。
 
西野 こうしたキットが第三世界に普及していけば、国際的な意味での文化貢献にまで繋がるのではないかと思います。 将来への人材教育はどこの国でも最優先課題ですから、 教育用のミュージアムキットというのは可能性のある一つの方法ではないかと思います。 そういう発想で将来の博物館事業の展開を夢見ています。
 
渡辺 それはビジネスとしても面白いし、将来性は十分あるお話ですね。 使い勝手のよさ、耐久性、シンプルさ、そういうものが付加されると非常に大きな事業に繋がる可能性がありますね。
 
西野 そのためのアイデアを練り上げるのが大学としての役割だと思っています。
 
渡辺 そのアイデアを実現するのがわれわれ企業の仕事ですね。 これからも大学の研究成果と民間のノウハウの融合ということに力点をおいて、前へ進んでいきたいと思っています。 本日はお忙しいところ、貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
 
 

「日本のミュージアムの現状に危機感をもっている」と西野教授。
産学連携による新しいミュージアム像の展開が重要だと強調

 
資料協力:東京大学総合研究博物館
 
関連サイト/東京大学総合研究博物館 

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