ケーススタディ
 東大の挑戦 産学連携プロジェクトの現状
 
大学における学術的研究に
民間企業の実践的な技術・ノウハウを加える

 
 東京大学総合研究博物館は、国立大学初の総合研究型ミュージアムとして、 旧総合研究資料館を拡充改組するかたちで1996年5月に誕生した。 創学以来蓄積されつづけている300万点を超える学術標本の保存と管理、公開と活用をその第一義的使命とするが、 同館では、そうしたルーティン業務にとどまらず、ありとあらゆる分野にまたがる膨大な学術標本コレクションをベースに、 既存の"専門分野"を超える高度な融合研究分野を創発し、先端諸科学を駆使した研究手法を開発することも、 館に付託された重要な使命としている。
 
 同博物館では、自館で行なう企画展を「実験展示」と称し、 「館が収蔵する学術標本を用いた研究成果での展示を行い、論文等によらない新しい公表の方法を研究すると同時に、 学内外に研究成果を公表する場」と位置づけて、館の展示空間を使って、さまざまな試みを行ってきた。 さらに、2002年10月1日には、(株)丹青社の寄附を受けて「ミュージアム・テクノロジー(博物館工学)寄附研究部門」が発足。 丹青社からは展示デザイナーである洪恒夫客員助教授を迎え、他部門の教官とコラボレーションするなど、大学における学術的研究に、 民間企業の蓄積する実践的な技術・ノウハウを加え、産学連携による実践的な研究を推進している。
 
(左)●国立大学初の総合研究型ミュージアムとして1996年5月に誕生した東京大学総合研究博物館
(中)●総合研究博物館の旧館展示ホールで2004年10月2日から05年5月8日まで開催されている特別展示「『Systema naturae』〜標本は語る〜」は、博物館での自然史研究から得られた「自然の体系」の様相を、収蔵する標本で具体的に展望
(右)●03年4月12日〜12月7日に開催された「シーボルトの21世紀」展は、総合研究博物館のコレクションにオランダ・ライデン大学所蔵の学術標本を併せた国際共同展。本邦初公開の稀少標本が多数展示された。また、従来のシーボルト像を見直す機会となった (撮影 奥村浩司)


 そうしたなか、総合研究博物館で04年1月24日〜4月12日に開催された特別展示「石の記憶―ヒロシマ・ナガサキ」がディスプレイデザイン賞2004のディスプレイ大賞を受賞したほか、 グッドデザイン賞2004に入賞。 さらに「石の記憶」展に関する研究成果として提出した 「学術とデザインの融合による展示効果についての研究―大学博物館の実験展示"石の記憶―ヒロシマ・ナガサキ"をモチーフとした展示の実践」がディスプレイデザイン賞の企画・研究特別賞とディスプレイ産業賞2004のディスプレイ産業特別賞に選ばれた。
また03年10月4日〜12月7日に同館で開催した「シーボルトの21世紀」展も ディスプレイデザイン賞の優秀賞を受賞した。 (社)ディスプレイデザイン協会が主催するディスプレイデザイン賞は、 空間環境系デザインの優秀な作品を評価・公表し、ディスプレイ分野における新しいクリエーターの発掘と、 デザイン活動の向上、領域拡大を目指すため、さまざまな分野のディスプレイ作品を選奨し、 優れたコンセプトで、個性的な創造性に富んだ作品に対し表彰を行う総合コンテストで、 今年度は協会内・外部の審査員による厳正な審査により、大賞1作品、優秀賞9作品、奨励賞10作品、 企画・研究特別賞4作品(学生賞含む)、協会特別賞1作品を選出。 賞合計25作品のうち3作品を総合研究博物館の特別展示が受賞したこととなり、 産学連携による取組みの成果が現れた結果といえるだろう。
 
 
一般社会との関わりが深いミュージアム事業
その連携先は産官学の各界に拡大

 
 ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門の発足から2年が過ぎた。 この間、同部門では「21世紀対応型のミュージアム像を模索する」という大きな目的に対して、 さまざまな活動を行ってきた。
 
 そのなかの大きな活動の一つが、前述の館内での実験展示で、「学術とデザインの融合」をキーワードに、 大学博物館の使命を果たしながらも、本来あるべきミュージアム像を探ることに留意しながら各種実験を行っている。 実験展示は年間3本程度のペースで開催しており、「石の記憶」展や「シーボルトの21世紀」展のほか、 これまでに、小柴昌俊東京大学名誉教授ノーベル賞受賞記念特別展「ニュートリノ」展(03年1月16日〜6月20日)、 「プロパガンダ1904―45新聞紙新聞誌新聞史」展(04年4月29日〜8月29日)を開催。 現在は、新館展示ホールで04年10月2日から12月26日まで「ディジタルとミュージアム」展を、 旧館展示ホールで04年10月2日から05年5月8日まで「『Systema naturae』〜標本は語る〜」展を公開している。
 
 また「学内での研究成果をどうやって社会に貢献していくか」という命題に対する模索と実践として、 企画展の巡回キットを作成し、巡回展を開催している。 「ニュートリノ」展の巡回展示は、これまでに青森県青森市、新潟県糸魚川市、神奈川県横須賀市、京都府木津町、 富山県上市町、大分県大分市の全国6か所で開催したほか、今後の開催の引き合いもきている。 さらに「ニュートリノ」展の実績をベースに、「石の記憶」展のキット化も計画しているが、 すでに具体的なオファーもきており、制作準備段階に入っているといってもいいだろう。
 
(左)●小柴昌俊東京大学名誉教授のノーベル賞受賞を記念して03年1月16日〜6月20日に開催された「ニュートリノ」展は、ディスプレイデザイン賞2003入賞。展示物全体をキット化し、国内各地の博物館等で巡回展を行っている
(中)●04年1月24日〜4月12日に開催された「石の記憶−ヒロシマ・ナガサキ」は、原爆投下直後の広島・長崎を調査した故渡辺武男東京大学名誉教授の収集になる被爆資料を展示。科学者が何を注視し、そこに何を見出したのか、"科学者のマインド"を来館者に追体験させる試みとなった
(右)●総合研究博物館所蔵のおし葉標本から回収された明治・大正・昭和初期発行の新聞と、世界各国で発行された各種稀少新聞資料を展示した「プロバガンダ1904-45 新聞紙新聞誌新聞史」は04年4月29日から8月29日まで開催。記録、宣伝、ネットワーク、アートなど、新聞紙を多角的に検討する場となった (上3点撮影 奥村浩司)

 
 また、あるべきミュージアム像を具現化していく取組みとして、 長野市から長野市立博物館改装についてのコンサルティング業務を受託、 ソフト、ハード両面からリニューアルを実施している(継続中)。 ここでは、ミュージアムの魅力を高めていくためのキーワードとして、「ミドルヤード」や「オープンラボ」など、 従来にないミュージアム・ファシリティ概念を提示している。
 
 また、さまざまなセミナー・講義の開催も総合研究博物館の活動のひとつである。 博物館自身は学生をもつ組織ではないことから、学内の他部局との協力・連携というかたちで、 一般の学生を対象に全学自由ゼミナールの講義を行なっている。 同ゼミでは、実際の博物館事業の現場の状況をもとに、実践的な話を盛り込みながらミュージアム活動について 学生にレクチャーしている。 また、全国の博物館で実際に働いている専門職を対象にしたセミナーとして「学芸員専修コース」を実施。 同セミナーでは、ミュージアム展示にきわめて重要な企画についてのワークショップを開催しており、 今年度は21世紀ミュージアムを考える思考型ワークショップを行った。
 
 さらに、「21世紀ミュージアム研究会」や「大学博物館将来計画検討会」などの研究会・検討会を開催し、 21世紀ミュージアムの可能性・位置づけについて、各方面の実務経験者の話をもとにディスカッションを実施してきた。
 
 このほか、超高齢者や障害者、小中学生を対象とする各種社会教育プログラムの運営や、 画像データベース等の学術情報財の構築、展示来館者の動態調査による博物館展示手法の研究などについても、 主要な研究課題と位置づけ、取り組みを図っている。
 
 ミュージアムに関する事業は、文化・教育・経済・産業など、一般社会との関わりも深く、 そのためミュージアム・テクノロジー寄附研究部門の活動範囲も、少しずつ拡大傾向にあり、 連携先も産官学の各界に広がりつつあるという。
 
(左・中)●「学芸員専修コース」は、講義と実習を通じて、博物館等関係者の企画力・技術力の向上の手助けをすることを目的に実施。今年度は11月17日〜19日に東京大学総合研究博物館第一演習室で開催
(右)●東京大学では平成14年度から、私財の寄付、ボランティア活動および援助、寄附講座、寄附研究部門等により、本学の活動の発展に大きく貢献した個人、法人、団体に対して、感謝の意を表すため「東京大学功績者顕彰制度」を設け、その功績に対し「東京大学稷門(しょくもん)賞」を贈呈している。(株)丹青社は、その寄付によるミュージアム・テクノロジー寄附研究部門設立の功績が評価され、平成16年度前期の稷門賞を受賞した
 
大学と社会の双方向的な連携を推進する拠点施設として、本郷キャンパス内・赤門北隣に11月1日オープンしたコミュニケーションセンター。レンガ造りの人力車庫にガラスのファサードを付設して整備した同センターでは、コミュニケ−ションマークが配されたグッズ類の販売や、東京大学の広報物の閲覧・配布など、キャンパスツアーの拠点として、東京大学を訪れる人を温かく迎えるさまざまな機能を提供

 
洪 恒夫 氏/
 
東京大学総合研究博物館 ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門 客員助教授
(株式会社丹青社公共空間事業部プロデューサー)

 
21世紀はデザインオリエンテッドなものづくりが重要な時代。 "デザインの味方"と組んでユーザーにダイレクトに発信できる場を創出
洪氏
 
ミュージアム・テクノロジー寄附研究部門は、「21世紀型ミュージアムを模索する」という大きなミッションのもとに、 さまざまな角度からその実践的な活動が始まりました。 そのなかで私は、展示デザイナー・プランナーという役割で参画し、 学術研究を進める専門分野の先生たちとのコラボレーションで展示を完成させるというような、 どちらかというと実践的に近いところでの活動を中心に行ってきました。 その他には、丹青社の業務で培ったノウハウを活かし、施設の構想に関わるコンサルティングや学生などを対象とした講義を行っています。
 
 また、学内にはデザイナーを持つ部局が他にないからでしょうか、 大学のセレモニーで使用するフラッグのデザインや、先日オープンしたコミュニケーションセンターの施設コンセプトメイキング、 施設計画、コミュニケーションマーク、グッズの基本方針の策定など、全学的なユニークな協力業務にも博物館の教官として携わってきました。
 
 2年が経過した今、寄附研究部門は、ようやくその基盤ができ、これを土台に積み上げていく時期に入ったと感じています。 今後も、産学連携というメリットを活かしたより実効性の高いミュージアム・テクノロジー研究を推進していく中で、 産業起こしに繋がるような活動や、ミュージアムを通した社会貢献にも寄与していきたいと考えています。

 
関連サイト:東京大学総合研究博物館
 

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