ケーススタディ

開館以来の大リニューアルで生まれ変わった"日本美術の殿堂"
 
東京国立博物館 平成の大改装  

 
東京国立博物館(東博)は、本館[日本ギャラリー]のリニューアルを行ない、2004年9月1日にグランドオープンした。
 00年4月の独立行政法人化を機に東博では、国が提供していたサービスをより柔軟に実施するために、それまでの運営の見直しを進めている。
 
(左)●本館は、関東大震災で破損した旧本館に代わり、1938(昭和13)年に開館。瓦屋根をいただき東洋風を強く打ち出した本館の建築は、「帝冠様式」の代表作とされている。設計は渡邊仁、2001(平成13)年に重要文化財に指定された
(中)●2階展示室入口。2階は「日本美術の流れ」として、縄文時代から江戸時代までの日本の美術史を、国宝・重要文化財などの名品を数多く含む「本物」で辿る。今回の改装では、館内のサイン計画をすべて見直している
(右)●時代別展示のスタートは「日本美術のあけぼの―縄文・弥生・古墳」。1点1点の展示物を大きな展示ケースに配置し、作品そのものにしっかり向き合える鑑賞空間となっている

 
 今回のリニューアルは、02年にオープンした平成館で開催される特別展には、多い時で1日に1万人を超える人が訪れるなど多数の来館者があるのに対し、東博の"根幹"である平常展まではなかなか足を運んでもらえないことから、本館の展示構成を見直し、"日本美術の殿堂"としてより魅力的な施設とすることを目指したもので、現在の本館が開館した、1938(昭和13)年以来の大改装となった。
 リニューアルは2段階で行なわれ、まず昨年7月1日に本館2階部分を絵画や書など分野ごとの展示構成から時代別に展示する第1段リニューアルを実施。「時代別にすることで初めて来館したお客様でも、教科書のようでわかりやすい展示になったと好評を得ました」(デザイン室 室長 木下史青 氏)。
 今回のリニューアルは第1段リニューアルに対する来館者アンケートの結果も踏まえ、日本美術をより見やすくわかりやすく展示することをテーマに、本館1、2階全室にわたって行なわれた。
 2階の時代別展示「日本美術の流れ」では、縄文時代から江戸時代までの日本の文化史、美術史を短時間で理解できるように、わかりやすく展示。各コーナーでは、「仏教の興隆」「宮廷の美術」「禅と水墨画」「茶の美術」「浮世絵と衣裳」など、各時代の文化・美術の特質に合わせたテーマを設定し、時代背景と文化の特徴をつかみながら鑑賞できるようになった。
 また、もっと詳しく多くの作品を見たいという希望も取り入れ、本館1階と2階の一部に、分野別展示・企画展示を設置し、彫刻、漆工、陶磁、刀剣など一つの分野の作品をじっくり鑑賞できるようにした。その他、より多様な作品を見せるために独自のテーマを設定できる企画展示の部屋を設置。今後、各研究員の研究成果を活かせる展示や季節に合わせた特集展示も計画している。
 また本館エントランスホール部分を、館すべての情報が集まるインフォメーションエリアとして設定し、案内板などの館内サインを改善し、インフォメーション機能を充実させるなど、初めての来館者にも利用しやすい環境を整えた。さらに、館内の構内マップを日本語・英語・中国語・ハングルの4か国語併記にし、年々増加している海外からの来館者、特にアジア圏からの来館者の便宜を図った。
 展示フロアには、ベンチを置くなど休憩スペースを増やし、展示物を見ながらくつろげる空間を提供している。
 
 
(左)●「仏教の興隆―奈良・飛鳥」では、仏教が伝来した飛鳥時代から奈良時代にかけて仏像や経典、舎利容器、仏具など古代の仏教美術を展示
(中)●「国宝室」は、絵画・書跡の国宝作品を、ゆったりとした空間で静かに鑑賞するために、特別に設けた展示室で、東博に所蔵、あるいは寄託されている国宝から、選りすぐった作品を1点ずつ展示。展示ケースには、映り込みを防ぐ無反射ガラスを使用している
(右)●「仏教の美術―平安〜室町」「宮廷の美術―平安〜室町」「禅と水墨画―鎌倉〜室町」の3ゾーンで構成する2階3室は、門型の使用やケース内への仕切りを取り付けることによって、細長い空間に、テーマごとのメリハリをつけている

 
(左)●室町時代に生まれ、安土桃山時代に千利休が大成した「茶の湯」は、日本が世界に誇る伝統文化のひとつとなっているが、「茶の美術」では、茶の湯の世界を構成するさまざまな美術(書画、花入、懐石の器、水差、釜、茶入、茶杓、茶碗など)を紹介
(中)●「武士の装い」は、平安時代末の源平の争乱から明治維新までの約700年にわたって、政権の実権を握った武士の文化を紹介。刀剣や甲冑や馬具、武士の装束、さらに武士の肖像画や書状などを展示
(右)●
「書画の展開―安土桃山・江戸」では多彩な展開を見せた安土桃山〜江戸時代の書と絵画を鑑賞できる。絵画は、狩野派を中心に、琳派、南画派、円山派など百花繚乱。書は、新しい書風を打ち立てた近衛信尹・本阿弥光悦・松花堂昭乗の寛永の三筆の作品、江戸時代中期以降流行した唐様の書、同時代に活躍した武将や茶人の筆跡を展示

 
(左)●「能と歌舞伎―中近世の芸能」。 日本の伝統芸能に関わる面や衣裳、小道具や楽器を紹介。人間の表情を映し取った日本独特の造形、能面と、染織技術の粋を凝らした能装束で幽玄の世界を、 さらに歌舞伎衣裳の奇抜で鮮明なデザインと色彩にみる江戸の「いき」を表現
(右)●「浮世絵と衣裳―江戸」。浮世絵版画の展示では光ファイバーを使い、熱線を出さずに照明効果をあげている

 
(左)●分野別展示を行なっている1階部分では、1つのテーマで数多くの作品を見たり、比較するなど、分野別展示ならではの見方、楽しみ方ができる。「彫刻」展示室の仏教彫刻では寺院のイメージの空間とするために柱と梁を設置
(右)●「民族資料―アイヌ・琉球」は赤をテーマカラーに民族資料を展示。日本列島の北辺で独特の文化を育んできたアイヌの祭祀具や暮らしの道具などと、中国や日本、朝鮮半島、東南アジアとの交易のなかで独自の文化を作りあげた琉球王国の絵画、文書、暮らしの道具、古写真などを展示

 
(左)●「近代美術―絵画・彫刻」では、西欧文明の影響を受けた日本美術の近代化の道筋を絵画と彫刻作品の展示によって紹介
(中)●本館入ってすぐの1階エントランスホールは、館内全体の情報が集まるインフォメーションエリアとして位置づけ、インフォメーションカウンターの一部分を、車椅子の方や子どもの目線に合わせた高さに調節するなど、インフォメーションカウンターとサイドボードの位置、デザインなどを再検討した
(右)●2層吹抜けになった階段ホールには、2階につながる階段下部分にPCが設置され、東京・京都・奈良の国立博物館が所蔵する国宝・重要文化財の精細な画像を見ることができるサイト「e國寶」にアクセスできる

 
木下 史青氏 /
東京国立博物館 デザイン室室長 展示デザイナー

 
本館の空間の魅力を引き出しながら
日本美術の新しい鑑賞空間を目指しました
木下氏
 
2000年4月から独立行政法人化されたことに伴い、運営面とともに東京国立博物館の組織も大きく見直され、よりサービスに特化した組織構成、職員配置に変わりました。そうしたなかで、展示・演出などの空間デザインを担当するデザイン室が昨年4月に設置され、今回の本館リニューアルはデザイン室として初めての大きな仕事になりました。
 
 今回のリニューアルにおいて、重要文化財である本館の建築空間を最大限に活かしながら、作品そのものにしっかりと向き合い、作品の背景にある時代や文化、展示テーマを理解できる日本美術の新しい鑑賞空間を目指しました。作品が作られた、あるいは使われていた時代や環境をイメージとして取り入れながら、安易な再現展示をせず、作品そのものをじっくり鑑賞できる空間を演出しました。たとえば、仏教彫刻を展示しているフロアでは、柱と梁で展示室内を演出し、作品が置かれていた寺院の空間をイメージさせています。しかし、柱や梁の素材・色をメタリックやモノトーンにするなど、現代的な感性に置き換えることによって、鑑賞者が現代の感覚でより自由に作品と向き合えるようにしました。
 
 本館は近代の帝冠様式を代表する建築として重要文化財に指定されているため、建築に手を加えることができません。そのため展示構成で最も力を注いだのは照明演出でした。以前の展示ケースは本館の空間と調和していませんでした。本来、展示ケースは作品と本館の空間の間で折り合いをつける装置になっていなければいけないのですが、本館の建物が鑑賞する人にとって意識されない空間になっていました。そのために、間接照明を取り入れるなど照明においてさまざまな実験を重ね、最も効果的な展示シーンを試行錯誤しながら、本館の魅力を引き出し、作品の持つ世界観を感じることができる空間を演出しました。さらに不快なまぶしさを極力カットし鑑賞の際の目の疲れを軽減しました。よく「会場が暗い」という意見もありますが、「快適な暗さ」というものもあるのではないかと思います。
 
 各展示室・コーナーごとに明確なテーマを設定し、テーマカラーをパネルや展示台に使用することで、展示空間の統一性を演出し、メリハリをつけています。また、情報提供のあり方についても検討を重ねました。来館者から「文字が小さい」という意見のあった作品のタイトルや年代、解説などを記した題箋や解説パネルを従来よりも大きくし、明るい色の用紙を採用し、文字の大きさ、レイアウトについても検討を重ね、より見やすくわかりやすいものにしました。数種類のサンプルを作り、休館日に実際に作品の前に置き、館職員やボランティアの方に協力を頂いたアンケートの結果を踏まえたものです。
 
 リニューアルを行なった9月は来館者数が今までの約2倍に増加しました。今後もよりよい鑑賞空間づくりを目指していきたいと思います。
 
関連サイト:
東京国立博物館  
 
 

データ 2004年12月現在

[所在地] 東京都台東区上野公園13-9
[本館[日本ギャラリー]
リニューアルオープン]
2004年9月1日
[事業主体] 東京国立博物館
[構造・規模] SRC造・地下1階地上2階建
[延床面積]
(一般公開スペース)
18,194m2(B1、1F、2F)
[施設内容] ○本館
日本ギャラリー(時代別展示、分野別展示)、ミュージアムショップ
[営業時間] 9:30〜17:00
[定休日] 月曜日、年末年始
[観覧料] 一般420(210)円、大学生130(70)円
※カッコ内は団体料金(20名以上)
※満65歳以上と高校生以下は無料
※特別展は別料金


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