ケーススタディ
 
来館者とのインタラクティブな関係を重視する"人に優しい"美術館
 
相田みつを美術館
 

 
 1996年9月の開館以来、東京・銀座で7年間親しまれてきた「相田みつを美術館」が2003年11月1日、東京・丸の内の東京国際フォーラム地下1階に移転オープンした。
移転前の2倍にスペースが拡大した新美術館のコンセプトは“あなたの人生の2時間を過ごす場所”。相田みつを氏の長男でもある館長・相田一人氏は「作品鑑賞に1時間、余韻に浸りくつろいで1時間と、充実した2時間を過ごしていただけるように心掛けました」とする。
新美術館は、JR京葉線への通路を挟み、相田みつを氏の作品展示を中心とする「第1ホール」と、相田みつを氏のバイオグラフィの展示やビデオ室等からなる「第2ホール」に分かれる。
 
(左)●東京国際フォーラム地下1階の北端に立地。地階ながら豊富な外光が降り注ぐ
(中)●第1ホールのレセプションを抜けてすぐの階段を昇ったところにあるインタラクティブ・インスタレーション「井戸」
(右)●「井戸」の中を覗き込むと「水」や「ゆ」など自然の水に近い書体の相田みつを作品が、つぎつぎに変化していく

 
第1ホールは、相田みつを氏が毎日散策し思索にふけっていたという栃木県足利市の八幡山古墳群をイメージしたつくりとなっている。高低差1.3mの緩やかな起伏を描く通路と階段には足に優しい珪藻土が敷き詰められている。「従来の美術館は、来館者ではなく美術館という建物の視点でつくられているため、作品の鑑賞後に“美術館独特の疲れ”というのを感じさせることがありました。相田みつを美術館では、来館者の方にゆっくりと歩きながら作品を鑑賞していただきたい」(相田館長)。
 
また「体験型美術館・体感型美術館という考え方を施設づくりの根底に置きました」(相田館長)という新美術館には、インタラクティブ(双方向)なインスタレーション(メディアアート)が館内の各所に設けられている。美術館での常設は世界でも初の試みで、第1ホールのエントランスの階段上の井戸やホール中央の電子ブック、展示室からカフェに向うスロープの壁面や床面、第2ホールの出口の手水鉢などに映し出された相田みつを氏の書が、来館者を感知するとつぎつぎと変化していく。
 
 
(左)●珪藻土でつくられた「大地」は1,300mm持ち上げられている。左側の「光壁」は東京国際フォーラムの既存の設備。光壁の強烈なインパクトを逆に活かして“自然観”を表現
(中)●展示ゾーンに置かれたインタラクティブ・インスタレーション「電子ブック」。来館者が「本」の表面を筆でなぞると相田みつをの「書」が現われる
(右)●第4展示室には相田みつを氏が実際に使用していた「作業台」を展示

 
(左)●第1ホールに展示室は5室が設けられている(写真は第1展示室)
(中)●ビデオコーナーでは相田みつを氏に関する映像作品を上映
(右)●第2ホールの出口の横に設置されたインタラクティブ・インスタレーション「手水鉢」。相田みつを氏の書を手で掬い取ることができる

 
来館者数は、移転オープンから3か月で10万人を超えるなど順調な滑り出しを示しているが、相田館長は「これは美術館の完成形ではなく、少なくとも1年間くらいかけてお客様につくっていただく美術館」として、来館者の要望・動きに応じて変化していく“柔構造の美術館”を目指している。
 
 
(左)●作品鑑賞後の余韻に浸れるよう、展示室以上のスペースを無料休憩ゾーンに割いている
(右)●第2ホールの喫茶室。第1ホール、第2ホールともにカフェには千本格子が使用されている

 
(左)●ミュージアムショップの購買率は高く、ショップだけの利用客も少なくない
(右)●第2ホールのエントランスの正面に設置されたメモリーボード。携帯電話で撮影した写真をメールで送信すると写真と名前が映し出される世界初の「電子芳名帳」

 
 
相田 一人氏/相田みつを美術館 館長
 
“1人になれる、2人になれる、3人になれる。
あなたの人生の2時間を過ごす場所。"
相田みつを美術館は、そういう美術館です
相田氏
 
 これまでの美術館は、来館者ではなく美術館という建物の視点でつくられているため、作品の鑑賞後に“美術館独特の疲れ”というのを感じさせることがありました。また、どんなに素晴らしい作品を観ても、それを咀嚼し反芻するための空間が設けられていないため感動が消化不良になってしまいがちでした。
 
 父・相田みつをの作品は、人間の生き方や心を見つめるその世界観から“癒しの言葉”などとも言われています。ですから新しい相田みつを美術館では、通路に珪藻土を敷き詰めるなど、来館者の方に森林浴を楽しむような感覚で、ゆっくりと歩きながら作品を鑑賞していただこうと考えました。無料休憩ゾーン(カフェ)についても展示室より広いスペースをあて、作品鑑賞に1時間、余韻に浸りくつろいで1時間と、充実した2時間を過ごしていただけるように心掛けました。
 
 また、銀座時代の相田みつを美術館もそうだったのですが、美術館というのは、えてして館側の想い入れを来館者に一方的に伝える傾向が強く、来館者側からのリアクションを受け入れるという双方向性にかける部分があったと思います。館内の各所に設けたインタラクティブなインスタレーションは、美術館と来館者とのつながりを深くするとともに、ヴァーチャルなメディアアートとの対比により、相田みつをの『書』がよりリアリティをもって実感できると思います。
 
 オープニングレセプションでご挨拶をしたときに「これは美術館の完成形ではなく、少なくとも1年間くらいかけてお客様につくっていただく美術館である」ということを申し上げました。いままでの美術館というのは学芸的見地から考えているところが多くて、それはそれで大事なんですが、美術館というのは私は、「接客業」だと思っています。接客業ということは、お客様に来ていただいて、満足して帰っていくということに尽きます。
 
 余談ですが、先日、私どもの美術館で結婚式ができないかというオファーがありました。どうしてですかとお聞きしたら、2人が出会って結婚に至るまでの各シーンに、銀座の相田みつを美術館があったというんです。それでは、いままで行なったことはありませんが是非とも協力させていただきますとお返事しました。この美術館ならミュージアムウェディングをしてみたいと思ってくださるカップルの方がいたということは大変嬉しいことと思っています。

 
 
橋本氏
 
橋本夕紀夫デザインスタジオ
橋本夕紀夫氏
1962年愛知県生まれ。1986年愛知県立芸術大学デザイン学科卒業。1996年橋本夕紀夫デザインスタジオを設立。ナショップライティングデザインコンテスト優秀賞、JCD優秀賞、空間デザインコンペティション銀賞など受賞多数。代表作として「銀座橙家」(銀座) 、「蘭亭」(台湾・台北)、「過門香」(銀座一丁目)、「BEAMS HOUSE」(丸の内)、「T邸」(東京都世田谷区)などを手がけられている
洗練された都会的な東京国際フォーラムとの対比が、
「相田みつを」のもつ“人間味のある世界観”を引き立てる

 
−橋本さんというと飲食店のイメージが強く、相田みつを美術館を手がけられたとお聞きして意外な感じがしたのですが。
 
橋本 これまでは飲食店が多かったのですが、そういう枠だけでなく、もう少しいろいろなカテゴリーのものをやりたいと思っていた矢先に、今回の相田みつを美術館のプロデュースを担当された建築プロデュース研究所の大内昌弘さんから、第1ホールの設計・デザインのお話をいただいたのがきっかけです。
 館長さんからは、「人間味のある世界観の美術館を構築したい」というご要望がありました。相田みつを美術館が入る東京国際フォーラムというのは、非常に都会的なつくりで、建築的にも洗練されているのですが、人間的な温かみということでは、都会的なセンスが強すぎ、どちらかというと相田みつをのもっている世界観とは対極的な空間です。しかし、僕は、逆にこれが面白いなと感じました。田舎にあるほうがしっくりする世界観のものが、都会的なもののなかにあるということで、その世界観が逆に際立つと考えたのです。
 
 
−人間味のあるということでは、具体的にどういった点に心がけられましたか。
 
橋本 館長は相田みつをさんのご子息であるということもあり、非常に詩的な発想をする方で、デザインに対する要望も、たとえば「胎内にいるような感じ」というように、言葉のイメージから発していくんですね。ですから、そうした言葉のニュアンスをつかんで、デザインに落とし込んでいくという形で進めていきました。「胎内性」ということでは、僕は「胎内性」というのは、ある種の懐かしさじゃないか解釈しました。初めてなんだけど訪れた感じがするとか、誰もが記憶のなか残っているというような空間にしていったらいいのではないかと。また、相田みつをさん自身が、よく自然を散策したりとか、川を眺めていたりとかしていた方なので、「水」とか「土」とか「自然」というのをキーワードにしました。
 
−展示室については、どのような考え方でデザインされたのですか。
 
橋本 まず、照明をぐっと落として、なるべくアートに集中ができるような落ち着いた感じにしていきたいと考えました。また、美術館の壁というのは通常、真っ白とか素っ気ないのが多いので、ここでは少しハイタッチな自然観を感じることができるようなものをつかっていきたいと思い、和紙を張りましたね。それも、5つの展示室すべて色を変えました。部屋を移動するごとに、少しづつ色が変わっていって、そのたびに違う空間に入ってきたというイメージを出していきました。
さらに、通常は展示空間ではあまりやらないことなのですが、床面に間接光をあえて入れて奥行き感を出し、壁材と光を使ってひとつの情緒ある空間性をつくるようにしました。大げさに言えば、鑑賞者と書の間にひとつの結界があって、そこから先はものすごく非現実的な世界が広がっているというイメージを一本の間接光で表現しました。やっぱりアートというのは、現実であって現実でないようなところもあるので、あえてそこに来て見に来るという非日常性みたいなものと空気としてつくっていって、そこに相田みつをの書がぽっかりと浮かんでいるというイメージですね。
 
−今回は、橋本さんが第1ホールをご担当し、小泉誠さんが第2ホールを担当され、第1ホールと第2ホールとは、それぞれ違うニュアンスなんですが、それでいながら全体の統一性というのが保たれていますね。
 
橋本 今回の相田みつを美術館は、プロデュースに大内さん、第2ホールに小泉さん、さらにインタラクティブに入江経一さんなど、さまざまな方とのコラボレーションでできあがりました。僕はコラボレーションしてモノをつくっていくことはすごく好きで、いろいろな感性が入ってきたほうが、内容を深められると思っていて、これまでも、アーチストや写真家の方などとコラボレーションしています。1人ですべてをやりきってしまうと、どうしても甘い部分がいろいろと出てくんじゃないかなという思いがある。コンセプトを共有できる人か、僕が尊敬できるような人とチームを組むと、密度がものすごく濃くなってくるんです。新しいものが生まれてくるときというのは個人だけではなく、さまざまな個性がぶつかり合ったときに生まれてくるのではないかという気がしますね。
 
関連サイト:
相田みつを美術館  
 

データ

[所在地] 東京都千代田区丸の内3-5-1
東京国際フォーラムB1
[オープン] 2003年11月1日
[運営主体] 相田みつを美術館
[延床面積] 1,566.78m2(和室・事務室を除く)
[施設内容] ○第1ホール
作品展示室5、カフェ(休憩室)、ショップ
○第2ホール
メモリーボード、バイオグラフィーコーナー、ビデオコーナー、カフェ
[営業時間] 10:00〜17:30(入館は17:00まで)
[定休日] 月曜(祝・祭日の場合は開館・振替休日なし)
[入館料金] 一般・大学生 800円
中・高校生・70歳以上 500円
小学生 200円
※幼稚園以下・身体障害者及び付添人は無料


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