ケーススタディ
ジョン・レノン・ミュージアム

多彩な面もつ人間像を次代に伝える
世界唯一の公式ミュージアム

データ

 埼玉県大宮市・与野市・浦和市にまたがる47ヘクタールの地区を再開発して誕生した「さいたま新都心」。その核施設のひとつとして開設された多目的アリーナ「さいたまスーパーアリーナ」内に、2000年10月、20世紀を代表するアーティストのひとりである元ビートルズのメンバー、ジョン・レノンにスポットを当てた博物館「ジョン・レノン・ミュージアム」がオープンした。

同館では、ジョン・レノンの使用した楽器や衣装、自身の手による作詞原稿や絵画など約130点もの品々を、夫人のオノ・ヨーコ氏の正式な許諾のもとに展示。「世界で初めての公式ミュージアム」と呼ぶにふさわしい内容となっている。

展示ゾーンはアリーナ正面側の2フロア、約1,500m2にわたって展開され、ジョンの生涯を約7分間の映像で紹介するシアターを皮切りに、時系列に沿って9つのテーマに基づいたゾーンで構成。さらに最後に、ジョンの遺した詩、曲、言葉などからなるメッセージと来館者が向き合う独特の空間を設けている。

館全体を貫くコンセプトとしては、たんに人気ミュージシャンとしてではなく、絵画や詩を手がけるアーティストであり、また主夫であり、平和運動家でもあるなどひとりの人間として多くの顔をもつジョン・レノンの全体像をありのままに伝えることに注力されているのが特徴。そのため、展示においては評論的な人物解説などは極力控えられた。ゾーンごとにジョン自身の短い言葉を配し、来館者一人ひとりが彼の考え方を感じ取れるようなキーワードとするなど、人物像を決め込まずニュートラルな視点からジョンの多面性を表現する工夫がなされている。

さらにその対象も既存のファンだけでなく、彼を知らない若い人々などにもジョンの魅力を伝えることを目指し、幅広い層の興味を喚起するような展示の工夫がなされている点も特筆される。具体的には、貴重な実物資料の展示を主役としながらも、それらをただ陳列するだけにとどまらず、空間としての臨場感を工夫することなどで、ファンと一般の客層両方への訴求を実現。とりわけキャバーンクラブの佇まいを模したレンガ造りの空間やダコタハウス、インディカギャラリー風の展示スペースにそれらが表われており、テーマ性とエンターテインメント性の両立が図られている。

なお、有料の展示スペース以外に、共用部分に「ミュージアム・ショップ」と「ミュージアム・カフェ」を併設。前者では、ジョンにゆかりの小物やファッション、アート作品などオリジナルグッズを中心に販売。後者は、ジョンが晩年に避暑の定宿としていた軽井沢の「万平ホテル」に運営を委託しているのも特徴だ。


ジョン・レノン・ミュージアム
館長 菊池二郎氏 インタビュー

ファンだけでなく一般客にも
満足を提供する
施設づくりと運営を心がける

新しい街づくりにおける
賑わいの創出を目指して

まず、このミュージアムの開発の主旨や位置づけについてお聞かせ下さい。

そもそも「さいたまスーパーアリーナ」は音楽とスポーツの殿堂であると同時に、「さいたま新都心」という新しい街における賑わいを創出する拠点として計画されました。3万人超という大規模収容力を誇るアリーナですが、連日イベントが開催されるわけではありません。そうしたなかで、恒常的に賑わいを創出するうえで、集客施設の付帯がポイントになると考え、大成建設(株)がアリーナ開発のコンペ参加に際し、建物正面の6フロアにわたって文化・アミューズメント施設を設けるゾーニングを提案しました。こうした提案も事業主である埼玉県から評価され、結果的にコンペ当選となったわけですが、その後、自らが事業主体となってこの「ジョン・レノン・ミュージアム」を展開する形になったわけです。運営に際しては、新たに100%出資の子会社として(株)ミュージアム・タイセイが設立され、これにあたっています。

ジョン・レノンというテーマに着目されたのは。

ジョンにスポットを当てたミュージアムというアイデア自体は、以前から各所で企画にのぼるケースはあったようですが、実際には実現はされてきませんでした。そこで「世界で唯一の公式ミュージアム」を実現すれば、必ずや目的性をもって広く来場してもらえ、さらに県の要請する賑わいづくりを実現する施設になると判断したわけです。

開発に際して苦労された部分とは。

オノ・ヨーコ夫人の許諾をいただくことがこのプロジェクト最大の前提条件でしたから、施設の主旨や内容について直接ご説明をするなど力を注ぎました。
しかしヨーコさんの許諾をいただいた後は、開館までの2年間という時間のなかでミュージアムの形づくりに向けてひたすら走ってきたという感じです。しかし、そこには2つの制約がありました。 ひとつは、建築的な制約です。もとよりアリーナの一部に位置し、ミュージアム用に設計・建築された建物ではないことから、どうミュージアムとしての空間を構築するかに腐心しました。 もうひとつは、あくまでも民間事業というなかで、採算を見据えたミュージアムのあり方をどう実現するか、という部分です。 前者については、階高もフロアごとに異なり、曲線の多い壁面形状といったデメリットを逆に空間としての面白さに転化できるようにチャレンジした結果、お客様からもユニークなミュージアムとして認めていただける形になりました。 後者については、あくまでもコスト意識をもって事業に臨み、限られた予算枠をムダなく活用できるよう工夫しました。

ファン、一般客を含めて
幅広い層の集客と満足を実現

オープン後の利用状況はいかがでしょうか。

オープン直後から、土・日祝日は2,000人、平日でも1,000人と、大変な混雑状態でスタートを切りました。約4か月が経過した2月現在では平日500人、土曜日は1,000人、日祝日は1,500人という形で安定的に推移しています。
客層は、当初からジョンのマニアックなファン層は全国でも10万〜20万人程度と捉えていましたから、事業面からも、ファン層以外の集客が不可欠とみていました。
しかしそれ以上にジョンの死後20年を経ており、すでに今の20歳代前半の若者層は彼が実際に活躍した姿を知らない世代です。こうした21世紀を担う世代に向けて、20世紀最大のアーティストのひとりといえるこの稀有な人物を伝えていこうとの使命感は強く、館づくりでもジョンを知らない若い人へのアピールをとくに意識しています。
これが奏効してか、実際の来館者の年齢層をアンケートなどからみると、20歳代が37%と突出して多い。10〜30歳代では70%まで占めるなど、若者層に訴えようという目論見は的中したといえます。
男女比ではほぼ五分五分で、商圏としては、当初は地元埼玉県内が中心でしたが、東京を含め首都圏全体、さらに北は北海道から南は九州まで、全国に及んできています。なかには海外からの来館者もいらっしゃいます。
こうした広範な集客を実現した理由としては、さまざまなメディアを通じたパブリシティ効果も大きいと思います。とくにオープン時は多くの取材によって、全国的に当館の存在が広められたとみています。

結果的にそれがさいたまアリーナ、ひいては新都心そのもののアピールにもつながっているのでしょうね。

そうかもしれません。実際の来館者の生の声については、先のアンケートを通じ収集しているのですが、この回答率が非常に高く、多い日だと来館者全体の5割以上、平均しても3割弱の方々がアンケートに協力いただくなど、一般のミュージアムを大きく上回る反応をいただいています。内容的には「遠くから来たけれども来たかいがあった」「また来たい」「感動した、ありがとう」などと満足してお帰りになる人が9割以上を占めており、この事業を手がけた苦労が報われる思いがしています。
また具体的な評価としても、予想より展示が豊富で充実している、などの声が多い。とくに20〜30分で見終われる規模と思って来館したら、予想以上にボリュームがあり全体を見きれなかったのでまた来た、というリピート客の方も少なくありません。平均的な滞留時間は1時間半程度と、われわれ自身が予測した数字よりもはるかに長くなっています。

じっくりとご覧になる方が多いのでしょうね。一方、マニア的な層の反応はいかがでしょうか。

あくまで展示品についてはヨーコさんを通じて本物の展示にこだわったことから、相当にマニアの方々にも満足いただける内容になっています。1人で既に10回も来られた方がいらっしゃるほどです。
わたし自身、けっしてもともとジョンについて詳しい人間ではなかったので、館づくりにおいては私にも十分わかり楽しめるような展示にしてほしい、とつねに要望して議論に参加してきました。その結果、ジョンを知らない層にもアピールでき、満足してもらえる内容になったと思います。ひとつひとつ真面目に、「いかにわかりやすく伝えるか」という視点を大事にしたことで、ファンの方からも、ジョンを知らない方からも、双方から満足をいただいているというのは結果的に嬉しいことですね。

逆に課題となっているのはどういう点でしょうか。

展示面においては、「解説の文字が小さい」「世界に誇れるミュージアムなのに解説文の英語表記が少ない」とのお客さまからの意見が寄せられていますが、実はこれも予想外でした。というのも当初は、展示解説文なども新聞で言えば「大見出し」だけが読まれて、「本文」の一字一句までは読まれないお客さまの方が多いのではないか、とみていたのですが、実際は細かくじっくり読まれる方が非常に多い。そのため、照明なども含めて読みやすい環境整備には前向きに取り組むつもりです。お客様の声などを参考に、「常に成長していくミュージアム」を標榜していますから。

ふたをあけてみたら予想しなかったような動きというのは他にもありますか。

ジョン・レノンのミュージアムではあるのですが、オノ・ヨーコさんに対する関心も非常に高いですね。
ヨーコさんに関する展示というのは、検討のすえ生い立ちや作品などそれなりのボリュームになりました。それはジョンの人生に与えた影響力が非常に大きいということが企画を進めるなかで実感されてきたからです。結果的に、この展示ゾーンはとくに興味をもってご覧になる方達が多く、ここでヨーコさんについて初めて正しく理解できた、という声もたいへん多いです。

来館者数の目標に対する実績という点ではいかがですか。

現在のところ、オープン以降延べ11万人がいらっしゃっています。これは予想の水準に近いペースですが、われわれとしてはただたんに多くのお客様が入ればいいとは思っていません。
たとえば展示冒頭のシアターは収容人員60人なのですが、実は上映に要する10分ごとに、この60人をグルーピングして次の展示ゾーンに送り出すことで館内の適正な観覧環境を創出する役割も担っています。それでも多いときは第1、2ゾーンあたりで人が詰まってしまうので、適宜1回40-50人に抑えて、よりゆったりと観覧できる環境づくりに留意しています。もちろんどんどん押し込めば数字は上がりますが、鑑賞上の環境面からこれ以上入れるのはよくないとの判断を優先しています。先に申し上げた滞留時間にも表れていますが、平日にあらためて来て、じっくり見られてよかったというリピート客からの声も実際にありますから。

来館者の満足を優先された結果ですね。いずれにしても1日1,000人近くの来場が途切れずに続くというのは、この規模としては期間限定の仮設ならともかく、この規模で常設の展示施設としては注目に値しますね。

ただ金曜日は午後8時までの営業として仕事帰りのアフター5需要の便を図ったのですが、この予想ははずれました。やはり仕事帰りに立寄って覗くような施設ではなく、目的性をもって来場するお客さまが中心ということの表われかもしれませんが。

企画展やイベントの開催を通じ
来館者の掘り起こしを推進

さて、リピート化の方策を含め、今後の集客戦略については。

リピート対策も重要ですが、それ以前にまだ当館への興味をお持ちの方がすべて実際に来館されたわけでないと思っています。混雑を避けるべく、時期をうかがっておられる層も少なくないはずですから。
もうひとつ、メディアへの露出が持続している点も大きい。オープン時も200社以上ものマスコミが殺到しましたが、現在でも新聞、テレビ、雑誌にいたるまで幅広い取材が続く状況です。そうしたことから現在の人気が急減するとは思えません。地道にお客様を取り込んでいきたいですし、新規客層はまだまだ掘り起こせると思います。
また今後の誘致策として考えているのですが、県内の中学校、高校などの課外授業の一環としての団体利用にも有意義であると考え、具体化させていきたいと思います。

アリーナなどとの相乗効果はいかがですか。

とくにアリーナで若者対象の音楽イベントなどが開催される日は予想以上に相乗効果がありますね。こうしたイベントと絡めた集客の仕掛けづくりもアリーナ側と連動して積極的に行なうつもりです。
そのほか企業による各種ビジネス展示会などが開催される際に、当館の優待券などをつけると集客効果が高いとのことで、企業によるチケットの一括購入のお申し込みもあります。そのため、こうした展示会が決定した際には、ビジネスチャンスを逃さないように、施設管理者との間で情報のやりとりを緊密に行なうこともお願いしています。

今後の企画展やイベントの予定は。

当館のオープン日はジョンの誕生日に合わせたわけですが、こうしたゆかりの日には何かしらのイベントを打っていきたいですね。すでに彼の命日である12月8日にも3日間にわたって「メモリアル3DAYS」というイベントを行ないました。追悼のミニコンサートなどのほかに、献花台を設けたところ、非常に多くの献花がありました。結果的に通常の金・土・日曜日よりも約2,000人上回る集客を得るなど、イベントの効果というものが実感されました。また先日、来館者の「10万人突破記念」キャンペーンを10日間にわたって行ないました。その間に来られた方のアンケート回答者から抽選でプレゼントを差し上げたのですが、やはりアンケート回収率が向上するなどの反応につながっています。
また展示面でもクリスマス時期にはジョンの書いた「ハッピー・クリスマス」の作詞原稿を1か月期間限定で展示するなど、年5、6回でも小さなイベントを通じて、継続的な情報発信をしていきたいですね。
またジョンは極めて多様な面をもつ人物でしたから、この限られた展示空間だけで彼のすべての才能を語り尽くすのは難しいのも確かです。それを補うべく、たとえば「ジョンと日本」などテーマを設けて企画展示も行なっていきたい。常設展示とはまた違った角度や切り口で、ジョンの多彩で奥深い人物像を浮かび上がらせていこうと、すでにその準備を始めているところです。

今後、「成長するミュージアム」を実現していくうえで、お考えのプランがあればお教え下さい。

当館のショップでしか買えないオリジナルグッズのラインナップをもっと充実させたいですね。実は展示の最後にジョンの遺したさまざまなメッセージを伝える部屋を設けたのですが、これはたんに遺品を並べるだけの展示施設とは明確に差別化し、ジョンのもつメッセージ性に光をあてたいとの意図があってのことです。これがお客さまから好評で、ここで掲げられたメッセージを持ち帰れるような「詩集」を発刊して欲しいとの要望も多数寄せられているのです。当館にあるミュージアムショップはオリジナル商品が約8割を占めますが、こうしたお客様の声を吸い上げながら、満足を提供できるような商品開発にも積極的に取り組んで行きたいと思います。
また海外との交流拠点としても活動していきたいと思います。たとえば、米国にあるロックの殿堂「ロックンロール・ホール・オブ・フェイム」などとも提携しながらお互いの収蔵品を交換して展示するなど、交流を深められたらと考えています。さらに今度誕生するさいたま市と、ジョンの故郷である英国リバプール市が姉妹都市関係を結べるような働きかけなども積極的に行なってみたいですね。

今後のご発展を期待いたします。本日はありがとうございました。

(2001年3月)


データ 2001年3月現在

ジョン・レノン・ミュージアム
[所在地] 埼玉県与野市(5/1からさいたま市)上落合2-27 さいたまスーパーアリーナ4、5階
[連絡先] 048-601-0009
[オープン] 2000年10月9日
[事業主体] 大成建設(株)
[運営主体] (株)ミュージアム・タイセイ
[展示面積] 1,500m2
[施設内容] ミュージアム/ミュージアム・ショップ/ミュージアム・カフェ
[開館時間] 11:00〜18:00
[休館日] 火曜日(祝日の場合は翌日)、1月1、2日
[利用料金] 大人1,500円/中高生1,000円/小学生500円

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