ケーススタディ
しまね海洋館 アクアス

地域活性化の拠点として開設
開業5か月で100万人以上の高集客を実現した
中・四国最大級の大規模水族館

データ

 2000年4月15日、日本海に面した島根県浜田市に「しまね海洋館 アクアス」がオープンした。過疎化の進行する県中部地域の活性化を図るために島根県が通年型集客施設の整備を計画するなか、公園や遊戯・休憩施設などを併設する大規模水族館として誕生をみたものである。

 同施設が開設されたのは、浜田市から江津市にかけて海沿いに広がる全長5.5キロの「島根県立石見海浜公園」内。飼育生物数(約500種・1万点)、総水量(約3000トン)、延床面積(1万293m2)ともに中国・四国地方で最大級を誇り、サメを中心とした大型魚や、西日本初登場となるシロイルカを展示する約1000トンの大型水槽2槽を備えるのが特徴だ。

 同地の神話にゆかりのあるサメをイメージした建物デザインの館内に足を踏み入れると、擬岩や打ち寄せる波などで磯をダイナミックに再現したオープン水槽を皮切りに、バラエティ豊かな水槽展示が展開する。飼育展示が困難とされるトビウオの展示などを行なう「しまねの海」、サメの展示を中心としたトンネルのある大水槽「神話の海」、さらに韓国、中国、ロシアなど日本海を取り巻く国々の魚などを主体にバラエティに富んだ展示を行なう「環日本海諸国」や色とりどりの熱帯魚を展示する「コーラルリーフ」、自然再現展示がなされた「アマゾン・アフリカ」などからなる「交流の海」など、島根の海の豊かさをあらためて知ることのできる“地域に根ざした館づくり”を基軸にしながら、日本海沿岸、さらには世界の海までを概観できる水槽展示で構成されている。

 なかでも目を引くのは、神話の海。底の部分に透明アクリルによるトンネルを設け、海中を泳ぐ生物の姿をあたかも海底から観察するかのような体験ができる。また3頭を収容したシロイルカプールでは、水槽に面してスタジアム状の客席を設けて、餌付けなど水中トレーニングの模様を観覧できるのも人気が高い。

 こうした水槽展示の他に、海の生物の誕生と進化の様子をシーラカンスのロボット模型や映像などを交えて紹介する「創造の海」、さらに座席にボディソニックを内蔵した映像シアター「冒険の海」などのエンターテインメント型の展示も導入している。

 また注目されるのは、液晶画面を使った動画、静止画、文字情報などで水槽内の展示生物を解説する「映像魚名板」。しかもLANによりバックヤードから情報の一括管理ができるシステムを構築し、新しい展示生物の追加や入替えの時にもパソコンでスタッフ自らが容易に情報更新が可能になっている。魚などに関する知識をクイズ形式で学べるタッチパネル型の液晶モニターも館内各所に設けられ、情報システムの充実が図られている。

 同施設の周囲には、広場や遊具などを配した公園も一体的に整備されており、総ガラス張りの休憩施設「環境ふれあい館」、単体のフィールドアスレチックとしては全国最大級の「アクアスランド」のほか、山海の幸を楽しめるレストラン「異瑠香(いるか)」、地場産品を中心とした地域交流物産館「森トピア」、シャワー設備を備えた休憩・喫茶室「マリンハウス」など飲食・物販施設も充実している。

 こうしたことから、開業初年度は全体で40万人の来場を見込んでスタートしたが、フタを開けてみるとアクアス単独で開業約2か月後にはこの目標を達成。とくにゴールデンウイーク時には1日あたり最高3万3000人が来館、周辺道路が終日渋滞するほどの人出をみた。その後も週末などコンスタントに1万人以上が来館する安定した集客をみせ、9月23日には100万人の来館者数を達成するなど、予想をはるかに上回る高い人気を集めている。

 客層はファミリー客および学校関係、観光客などの団体客が中心。島根県内はもとより、広島市、福山市など山陽エリアからの来館者が全体の約4割を占めるほか、岡山、山口各県を含めて中国地方全域から広範囲にわたって来館者を獲得している。

 こうした高集客の要因について同館展示課課長 守谷浩氏は、(1)中国・四国最大規模の水族館に対する注目度の高さ、(2)国内でも3か所めという珍しいシロイルカの展示、などが効を奏したものとみる。事実、愛くるしいシロイルカを目当てに来館する目的客も少なくないという。

 同館ではこうしたスケール面や展示物の新奇性に頼ることなく、将来にわたり安定した集客を実現するために運営面でも独自の魅力づくりに注力している。2000年の夏休みには小学生とその保護者を対象に水族館内での宿泊を含む体験学習型のサマースクールを開催、多数の参加者を得たという。今後もこうした参加型イベントなどには積極的に取り組んでいきたいとのことで、その運営動向が注目されるところだ。


プロデュースワークの実際
更新可能な展示空間のあり方を
情報システムの構築を中心に実現し
次代の水族館の姿を提示

 開館以来、予想をはるかに上回る集客をみせている「しまね海洋館アクアス」。その背後には、飼育・運営サイドに密着して“生きた”情報提供を支える新たな展示づくりの試みがあった。

 ここでは、同館の展示設計をはじめロゴデザインを含むデザインマニュアルづくりまでを担当した 丹青社 公共空間事業部第1デザイン部ディレクター・高柳敦と、展示の制作施工を担当した展示空間統括部公共空間制作2部課長・成田洋二がそのプロデュースワークの実際を明らかにする。

更新可能な展示に貢献する
「映像魚名板」を提案

 水族館が一般的な博物館と大きく異なるのは、展示すべき対象が魚など「生き物」である点だ。ここアクアスにおける展示設計や施工においても「主役」である魚などの生物をいかにきちんと来館者に見せるかが最大の眼目に掲げられたのはいうまでもない。

 しかもこのような水族館のもつ性格上、工事が終了すれば完成というわけではなく、開館してから生物の飼育を含む運営全体を通じて本当の意味での「施設づくり」が始まるといえる。こうした点を踏まえ、これまでにも多くの水族館の立ち上げに携わってきた同館館長・松崎健三氏から要請されたのは、「変更・更新が容易な展示の仕組み」という方向性だったという。

 そこで展示設計に際しての基本的な姿勢として「つくり込みを重視するよりも、可変性や自由度の確保に留意しました」(高柳)という。このコンセプトを具体化する方法論はいくつか用意されたが、そのなかでもポイントとなったのが、「映像魚名板」に代表される情報システムだ。

 映像魚名板とは、展示水槽内の生物についての解説を液晶画面を活用して動画・静止画の映像情報や文字情報などで来館者に提供するもの。しかもその情報については、飼育室に設けられたパソコンで映像情報や文字情報をファイルに取り込み、サーバーを通じて館内に巡らされたLAN経由で各端末画面に随時提供できるシステムを構築している。

 その最大の効能は展示生物の入替えなどにともなう魚名板の更新にも、スタッフ自身でリアルタイムで対応できる点。もちろん飼育活動におけるトピックスなどタイムリーな情報提供も可能になるわけで、館が求めた「変更・更新が容易な展示」=フレキシブルな展示の実現に大いに貢献するものとなっている。

 同時に、これは飼育係など館側スタッフと来館者との「距離」を縮め、来館者に水族館をより身近に感じてもらう効果をも担うものといえる。基本計画の段階からこのシステムを提案した高柳は、「それまでに内外の数多くの水族館を視察しましたが、館側のスタッフの声や心が来館者に直接伝わる施設というのがもっとも魅力的に映りました。その実現を考えるなかで、こうした情報システムの発案につながってきたわけです」と語る。そのシステム構築に際しては、丹青社のIT関連の情報システム部門がその手腕を発揮、また同館のホームページ制作についても支援している。

 さらに特筆すべきは、この情報システムが館内の情報検索クイズや同館のホームページとリンクするだけでなく、県が主宰する「しまねフロンティアネットワーク」という広域ネットにリンクするデータベースともなっている点。将来的には県内の小・中学校などからアクセスできる可能性をもたせ、館内だけでなく館の外に向けても広く情報発信を行なう拡張性を視野に入れている。今後のミュージアムのあり方として大いに注目されるところだろう。

 同館では開業後、すでにミニアクアリウムを中心に展示の更新が行なわれてきているが、それにあわせて館のスタッフ自らデジタルカメラで魚の姿を撮影、解説文を加えるなどして映像魚名板の情報の差替えを行なうなど、新鮮な情報発信を遂行するうえでもこのシステムはフル活用されている。

 実際の映像魚名板制作については、暗い水族館内部だけに、「その光の強さや色、文字などについていくつものサンプルを用意し、現場での調整を図っていきました」(成田)というように設置までには細心の配慮がなされているのも見逃せない。

メンテナンスや展示替えにも
配慮した水槽づくり

 こうした更新が容易な展示づくりというテーマについては、水槽内においても具体化されている。通常、その魚の棲む環境を含めて展示する場合は、擬岩などを用い海中や海底などの様子を再現するケースが多い。しかし、ここでは展示の変更に対応できるように「擬岩の素材面についてはモルタルなどで固定的につくり込まずに、FRPを採用して極力移設可能な形としました」(高柳)という。
 このFRPは軽量のため移動が容易で展示更新に適切である反面、擬岩の内部に空間が生じることからそこに「死に水」が発生し、水質の悪化をもたらす危険性もある。そこで、擬岩の一部に開口部を設けたり多孔性にして水が淀まないよう配慮するなど、細やかな工夫も施している。

 また水槽全般については、生物を主体に見せるという館の意向を反映して、「神話の海」や「シロイルカプール」については極力シンプルな内容とする一方、「しまねの磯」「コーラルリーフ」などについては環境を含めた再現を行ない、巨大な館内を飽きさせることのないようにメリハリをつけた構成としている。

 もっともシンプルな水槽においても、魚を効果的に見せる手立ては怠っていない。とくに水槽を照らす照明計画には力が注がれたが、これについては「水中の照度などに関するデータは非常に少ないため、その場で光源にフィルターをかけながら求める明るさや色を微調整していく作業を繰り返しました」(成田)という。その一方で、演出効果だけでなくメンテナンス面も考慮して、保守作業がしやすい位置取りやその作業手法まで綿密に計画して照明の設置を行なったという。

 反対につくり込みを行なった水槽に目を移すと、熱帯魚を展示するコーラルリーフでは擬サンゴなども豊富に盛り込み、色鮮やかな南洋の海の環境を再現したが、ここでもメンテナンスを重視。カラフルな海中風景だけに水垢などによる色のくすみを避けるため、館との協議のうえこれら擬サンゴなどの環境演出物に防汚塗装を施している。この塗装は、原子力発電所の海水の取水管などで貝類の付着を防ぐために用いられる特殊な塗料によるもの。これによって水垢などの付着を極力抑え、保守作業の軽減につなげている。

館運営を支援する
舞台づくりこそテーマ

 さて今回のプロジェクトでは、前述のように生物の展示を主軸にするというコンセプトを受けて、展示面では解説装置やグラフィック、文字などの存在感も吟味され、水槽そのものをより際立たせる手法が採られた。近年、大規模水族館の誕生が相次ぎ、見世物的な展示手法にも陥りがちななか、生き物の姿をきちんと見せるという同館のスタイルはシンプルかつオーソドックスながら、ある種の新鮮さを醸し出している。

 と同時に、来館者の目に触れる展示部分以上に、その背後にもさまざまな技術が投じられている点は特筆されるだろう。とりわけ運営面に配慮し、スタッフが働きやすい環境を用意することがひいては優れた水族館(展示)をつくりあげることにつながるとの信念がそこには伺える。

 「やはり水族館にとっては生き物が主役ですから、飼育係の方々をはじめ館のスタッフ全員が自らの手でつくりあげていく部分が何より大きな魅力の要素となります。ですからわれわれの役割としては、その方々が働く舞台をどれだけ快適で使いやすいものとして整備できるかがポイントになると考えました」(高柳)。

 先の映像魚名板をはじめ、展示変更容易な水槽構成や、照明計画、水槽内の清掃ほかメンテナンスへの配慮など、いずれもこの言葉どおり館運営を積極的に支援していくためのものといえよう。

 もちろん来館者に向けても、すべての水槽に音声ガイドを設置したほか、壁面にさまざまな魚のレリーフを設けて空間演出とするとともに、これを触ることによって視覚障害者にも水族館を楽しんでもらえる工夫とするなど、キメ細かな配慮をそこここに感じることができる。

 派手な演出は抑えながら、地元の海と生物の姿の展示を最優先し館と来館者のコミュニケーションの促進に工夫を凝らすなど、いわば水族館の原点に立ち返ったともいえるこのアクアスは、来館者と飼育者・運営者という、いわば館の2つのユーザーの立場に立って展示解説のあり方を探った例といえる。主役である生物――魚を引き立たせる役に徹しながら、わかりやすい見せ方、展示更新の容易さ、使い勝手のよさなどを具現化できたのも、館側の熱意や柔軟な発想はもちろん、計画初期から展示スタッフが施設づくりに参加できたことにより果たせた部分が大きい。その同館がすでに目標を大幅に上回る来館者で賑わい、集客施設としても大きな成果をあげていることを考えると、ここでの試みが次代の水族館のあり方に示唆する部分はけっして少なくないといえよう。

(2000年12月)


データ 2000年10月現在

[所在地] 島根県浜田市久代町1117-2
[連絡先] 0855-28-3611
[オープン] 2000年4月15日
[事業主体] 島根県
[運営主体] (財)しまね海洋館
[建築設計監理] 都市基盤整備公団、日建設計
[建築施工] 竹中工務店・奥村組・カナツ技研工業共同企業体
[展示設計・製作] 丹青社
[総事業費] 約84億円
[敷地面積] 11,865m2
[建物規模] 地上3階建
[延床面積] 10,293m2
[施設内容] アクアス: しまねの海、神話の海、創造の海、交流の海、冒険の海、シロイルカプール、アシカ・アザラシプール、マイクロアクアリウム、標本展示室他
環境ふれあい館、マリンハウス、アクアス広場、レストラン異瑠香、地域交流物産館森トピア他
[利用料金] 入館料: 大人1500(1200)円、小中高校生500(400)円
()は20人以上の団体料金
[開館時間] 9:30〜17:30
[休館日] 火曜日、12月31日、1月1日

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